竜灯&糸依

永劫の徴

シロー/竜灯 > (鬼灯神社の社務所の一角を借りて、竜灯と糸依は正装へと着替えていた。竜灯は先に着替え終わったようで、竜胆車の家紋が刻まれた黒い紋付羽織袴姿で、僅かに柱に凭れて待っていた。糸依の方は着付けに時間が掛かって居る様で、襖の先で衣擦れが聞こえてくる音を聞きながら、父とたわいの無い会話を終えた。)「分かったき、ちっと外で待っちょってくれ、父上」(糸依の晴れ姿を見たがっているのか、やけに居座る父に呆れた様に笑うと、『外で参進の儀の準備でもしとうせ、ほいじゃまた後で』と父を追いやるのだった。着替えて最初の顔合わせくらい二人でやりたいものだ。糸依だってその筈だ。全く、と腰に手を当てて息を吐くと、襖がゆっくりと開く。慌てて向き直ると、堂々と糸依の姿を視界に迎え入れて、一言呟いた。)「⋯まこと綺麗じゃ、糸依さん」   (4/4 13:34:55)


清瀬/糸依 > (春の陽気は適度に心地好く、僅かに桜吹雪の拝める良き日となった。体の調子も悪くない、神様も今日ばかりは日頃の行いに目を瞑ってくれているようだ。『着付けを手伝う』と名乗り出た母親に髪を整えて貰い、綺麗とは言い難いこの癖のある黒髪も何とか形に収まった。後はやるからと追い返したはいいものの、慣れぬ衣服に時間をとられてしまう。抱え帯を締めて打掛を羽織ったあたりで、外から聞こえてくる二人分の談笑に僅かに笑みを漏らす。あれは竜灯と、それから彼の父親だろうか。私が言えたことではないが、親子の仲は良いに限る。厳格そうだったけどきっと悪い人ではないだろう、何せ竜灯の父だ。支度が整い、最後に姿見の前でおかしな所がないか自分の姿を眺める。これが自分か、結構なもので。この自分が結婚、なんて正直未だに信じ難い事実だが、此は夢でも幻でもない。襖を開けば紋付羽織の袴が見える。鯔背な尊華男児、綺麗だと満足げに見つめる竜灯に軽く笑みを返して感嘆のため息を一つ。)   (4/4 14:20:40)
清瀬/糸依 > 「………ありがとう、竜灯こそ」(その後に続く言葉は言わずに一度切ったが、流石、見れば見るほど言葉を失うというか。自分とて顔は悪くないとは思っていたが、こんなにもいい人を捕まえられたのが不思議なぐらいだ。ふきを擦りながらゆっくりと竜灯の隣に歩くと視線を合わせる。)「見目麗しく、益々いい男になって。素敵だよ」   (4/4 14:20:49)


シロー/竜灯 > 「糸依さん、まっこと⋯⋯。⋯⋯見惚れてしもうたぜよ。」(奥ゆかしい仕草で歩き、隣に並ぼうとする糸依の顔を追い掛けながら、溜息混じりにそう呟いた。こん人が俺の嫁さんか、結婚か。そう心の中で何度も独白して、瞳を細めて口角を上げるのだった。)「糸依さんを嫁に迎えられて、俺は世界一の幸せもんじゃ。⋯⋯⋯俺が榮郷に来て、十とひととせ。今日が一番幸せだ。」(並んで辺りを見渡して、満足気に揃えられた髪を人差し指で崩さないように掻いた。自分より幾らかの低いその肩に片手を置くと、静かに滑らせて、肩を抱くようにして並んだまま引き寄せた。眼下に糸依の瞳を覗いて、瞳を合わせたまま続けた。)「もうすぐ、参進の儀じゃ、皆が糸依さんの晴れ姿を待っちょる。やけんど⋯⋯最初にしかと焼き付けるのはこん俺じゃ、こっちを見とうせ、糸依さん⋯」(外では太鼓や笛を構えた鬼灯神社の仕え人達が自分たちを待っていることだろう。それまでの少しの間だけでも、最初に独り占めしたくて、目を優しげに細めたまま糸依の頬に手を当てて軽く持ち上げた。)「糸依さん、俺と結婚じゃ。⋯⋯どんな気持ちじゃ?」   (4/4 15:03:48)


清瀬/糸依 > 「世界一なんて、傲慢な」(映える竜胆車を背に携えた黒い羽織、何を着ても様になる竜灯が少し羨ましいし憎らしい。いつもの魔除けの差し色は見当たらなくても十分に……愛おしい?それはあまりにもいじらしくて、らしくないな。肩を抱き寄せられるのに従って少し身を寄せると、感慨に浸るように瞳を閉じてから再び竜灯へと視線を移した。手の先が落ちつかなくて仕方ないが、紅の乗った唇や折角整えた見て呉が崩れてしまうのが勿体なくて、口元を覆ういつもの仕草は封じられる。此方がむず痒くなる程甘い言葉を倩と述べる竜灯はいつも通り、ほんのりと赤く擦りなした頬にあてられた手はひんやりとしていた。一つ息を短く吐いて、いつもの意地の悪いものではなく、柔らかな声色で囁いた。)   (4/4 16:04:02)
清瀬/糸依 > 「月並みで宜しからば……これ以上ないくらい幸せ。竜胆みたいな……誰よりも素敵な人と、この時を迎えられるなんて、私こそ…身に余るくらい、幸せ者だよ」(華燭は灯らぬ式典だが、何よりもきらびやかで素敵な一時になるのだろう。神様の、縁様の導いた出逢いで、私は幾らか変わったけれど、この人は変わっていないように見える。いつまでも耀かしくて、何処へ行くかを真っ直ぐと照らす不変の一筋の光だ。同じ様に指を竜灯の頬へと滑らせると輪郭を這うように添えて、親指で何度か頬の肌を撫でて満足げに破顔した。)   (4/4 16:04:14)


シロー/竜灯 > 「ほうか。⋯⋯ほうかほうか⋯っ!」(ニヒルに口角を上げてばかりな竜灯だったが、今回ばかりは感情を顕にする事を抑えられなかった。嬉しそうに満面の微笑みで表情に花を咲かせると、糸依の頬に当てた手をそっと滑らせて退かした。何やら、唇に差した紅を汚してしまうのは嫌でそっと我慢したのだろう、唇を軽く舐めるように舌をちろりと出してから、優しげな表情で頬に添えられた手の上に自分の掌を重ねたのだった。)「愛しちょる、今日からずっと一緒だ、糸依さん」(見つめあったまま、時が止まって欲しいとすら思った。幸せすぎてどうにかなってしまいそうだ。)「なんかの。色々、思い出しちょる」(この笑顔を見られるようになったのは何時からだろう。初めて会った時からこれまでの事を思い出す。   (4/4 19:05:05)
シロー/竜灯 > 『……お願いだから帰らせてよ。』『──今夜はまだ帰らせん。』『……結局、逃げた。其れだけの、事です。』『──暴れても何しても離してやらん』『⋯⋯やだ、そんなの。本気じゃ、だって…』『──あとは黙って俺に委ねれば良い、今おまんを愛しちゃる』『⋯⋯おなごの部屋に、ぬけぬけと。猶なめげなる人よ』『──俺の奥さんになって、こんまま軍人辞めるか?』───)「⋯⋯」(色んなことがあった。彼女と出会ってからというもの。最初から気になっていたのだろう、いつも、この手を掴んで引っ張っていく内に、愛しくなっていたのだろう。何だか、馴れ初めをふと思い出すと、今こうして夫婦となるなんて幸せに⋯⋯涙ぐんでしまうのも致し方、ないだろう。きっと。神様も今だけは見逃してくれる、人前でも。多分。⋯⋯潤んだ瞳を隠す様にして、さっと視線を逸らし、隣に並び立つ。いつもの様に手を差し出して、湿った睫毛を一つ瞬きしてから微笑みかけた。)「⋯⋯さあ行こう、糸依さん。皆が待っちょるき。」   (4/4 19:05:06)


清瀬/糸依 > (いつもならば、こんなにも純情な言葉にどうしても恥じらいを抱いてしまう厭な性格をしていた。幸せ絶頂と言わんばかりに、珍しく嬉々とした満面の笑みの竜灯を眼前にしては、そうも思っていられなかった。高揚していつになく心が弾んでしまうのも仕方なかった。口の端をきつくしようと思っても、綻びきった見栄ではそれも叶いそうにない。つまるところ、浮かれていた。そしてそれを自覚できぬ程、この僥倖に盲目だった。)   (4/4 21:28:13)
清瀬/糸依 > 「…………」(思い出の頁を遡れば、彼は随分前から登場していたようで名前が綴られていたのはたったの三年前。“たった”と思える程、なのだろう。酒の席を共にしたり、共に王国を回ったり。罵詈雑言を放たれた相手に自分を信じろとまで言ってのけた。理解ができるかと言われれば未だによくわからない、けれど確かに竜灯は、嘘偽りのない本心で生きている、私と同じ見栄っ張りだ。そんな彼が目尻に涙を浮かべているように見えたのは、恐らく心做し。今日の私は可愛い花嫁御だ、行こうと言われたのならば、返事はたった一つでいい。)「はい」(含羞みを含めた微かな朗笑の後に、差し伸べられた手に悄らしく重ねた。そろそろ外の風に涼みたい気分だった、やけに今日は熱く感じた。足を踏み出せばそこは晴れ舞台。今まで徳を積んできた訳でもないが、愛した人と結ばれる幸せを願っても誰も咎めはしないだろう。結ばれた相即の仲が、末永いものとなりますように。)〆【永劫の徴】   (4/4 21:28:15)