ターラ&ノービア
紅の巡り清瀬/ターラ > 「ああもう、遅くなっちゃった…肉屋のおばさま、オマケしてくれるのは嬉しいけど話が長いんだもん……っ!」(日の傾いたウェント。長い影を連れて小走りで煉瓦の道を通るのは、いつものウェンディアブルーの制服ではなく私服に身を包んだ女であった。花祭りに賑わう街も、夜が近づくと異形を恐れてか人通りが珠の外減ってしまう。紙袋を鉄と肌の両腕で抱えながら、怯えるように背中を丸めて足を進める。卵とベーコン、パセリに玉葱にチーズ、それからトマト!エッグパスタとカプレーゼでも作ろうかなんて材料を買いに行ったのは良いものの、行きつけの店で談笑が過ぎたのは計算外。少し外れの道では街灯はまだ点かない。微かな日の光を頼りに駆けていると、突然視界がぐっと下がった。) (3/29 20:43:34)
清瀬/ターラ > 「わっ!!」(躓いた、そうわかった途端に脳が瞬時に働く。卵が割れたらディナーが悲惨なことに!これぞ火事場のなんとやら、咄嗟に紙袋を上げて、滑り込むように倒れる。トマトが一つ、誰かの元へ転がっていく。『いたたた……』と呟きながら起き上がって、砂でデコレーションされた服を手ではたく。怪我も服の解れもないことを確認して満悦でいたが、すぐに顔を青ざめさせて叫んだ。)「…………卵!!は……割れて、ない……っ!」(袋を漁ればタオルに包まれた卵は宝玉の如く鎮座しており、一つの皹もなかった。私の晩餐は此処に守られた、と安堵に胸を撫で下ろす。) (3/29 20:43:36)
大和守/ノービア > (──血濡れの花嫁は、今日も『花婿』を探している。昼の賑やかさとは比べ物にならない程静まってしまった王都。街灯も点かず視界が悪く、目を凝らして辺りを見つめた。見た限りでは恐らく居ない。辺りが暗すぎて見つけにくいという反面、その分人間らしくしていればイモータルである事もバレにくいが。それでも、何よりも『花婿』が相変わらず見つからない事に溜め息を一つ。だが、その感情を掻き消す様に短い悲鳴が聞こえれば、そちらをゆったりと見つめた。)「……あら?」(ふと、足元に小さな感触。肌に触れたのは赤く立派に熟れた野菜。首を傾げれば屈んでそれを拾い上げ、何処からそれが転がってきたのだろうかと見回した。ふと、倒れている貴女とその手に持つ紙袋が視界に入れば、転んだ拍子に落としてしまったのかと推測。無ければ困るだろうと、ノービアは立ち上がった貴女の元へ歩いていく。) (3/29 20:59:33)
大和守/ノービア > 「これ……落としましたよ。その、大丈夫……ですか?」(ぺたぺたと、裸足特有の音を響かせながら貴女の元へ近付いた。手に持ったトマトを恐る恐るといった様子でゆっくりと差し出し、首を傾げて。先程転んでいる様子を見てしまった為に、怪我などしていないかと。女性と関わるのを普段避けているノービアではあるが、今はそんな事も言っていられない。困っている人を見放す事など出来ず。……まぁ、こんな血濡れの姿で声を掛けたらどうなるか考えなかったのは、残念ではあるのだが。) (3/29 20:59:35)
清瀬/ターラ > 「よかったよかった……あれ。えーっと……いち、にぃ……あれれれ…………」(笑顔を浮かべていたのも束の間、袋の中の風景に違和感を覚えて数を数えてみればあら不思議、一つたりないものが。目を瞑っていたからか何処に転がったかもわからないしもしかしたら買い間違えたか置いてきたのかも。カプレーゼはモッツァレラとトマト、どちらが足りなくても成り立たないもの。これではチーズが余ってしまう、どうしようか、整備士達が使っている冷蔵庫に放り込んでおけば誰かが勝手に使ったりするだろうか。感情はころころ、春の気温の如く移り行く。ちっぽけな悲しみにしょんぼりと項垂れる女は、忍び寄る脅威に気付かない。) (3/29 21:34:05)
清瀬/ターラ > 「トマト、トマト……あっ、どうもありがとうござぁぁぁぁッッ───」(ペタペタというオノマトペ、まずそこから疑うべきだったのだろう。差し出された落とし物とかけられた声に笑顔で接したはいいものの、手を伝って腕、顔と視線を移しては思わず叫ぶのも仕方がないだろう。紙袋を持っていた右腕を離すわけにはいかず、受け取ったトマトを離して口を塞ぐ他なかった。其処居たのは血塗れ人間──で、あればまだ良かったのだが。生気のない白さは清さよりも恐ろしさを植え付ける。叫び声を抑えて後退り。目を逸らしては殺される、そんな気がした。肉屋のおばさまを呪うのは後にして、今はどうにか乗り切らないといけない。)「えっと、その……私急用を、思い出してですねその…あー、あは………」(冷や汗が服に張り付いて気色悪い。対抗策は、何か武器を、いやそれより逃げないと。空白が怖い、時間を稼がないと。そんな一心で言葉を途絶えさせないように考えもせず口走っていた。)「……えっと!えっ、あ。美しいお姉さん、どうも奇遇です、ね……再開は要らないので、このままさよなら…したいなぁ~なん、て………」 (3/29 21:34:07)
大和守.ノービア > 「え、えっ、と……そ、その、その……」(……嗚呼そうだ、この姿じゃ驚かせて当然だった。当たり前の事がすっかり頭から抜け落ちており、明らかに怯え警戒した様子の貴女にしどろもどろになりながら言葉を詰まらせた。)「そ、その、私は別に、貴女に危害を加えるつもりは……ーーッ、う!?」(何とか貴女を落ち着かせたい。そんな一心で必死に言葉を掛けようとするものの。その途中、貴女の言葉が引っ掛かった。それは刃となり、死に置いてきてしまった記憶を無理矢理抉じ開けようとするのだ。鋭い痛みが脳裏を襲う。思わず頭を骨と人間の肌に覆われた二つの手で強く押さえつける。)(…………鈍く重い、鐘の音が記憶の中で強く響いた。) (3/29 22:01:35)
大和守.ノービア > (本当に心から愛している人との結婚は、何よりも嬉しく幸福なものだろう。『君は美しいね』、なんて何度も聞いた言葉も紡ぐ人が愛しい人であれば何度でも幸せになれる。『本当に良いのかい、駆け落ちなんて。いや、今更嫌になった訳じゃないよ。ただ、こんな無一文の男に君みたいな美しい女性が、その人生を捧げるなんて……勿体無いと思うよ』。私はあなたになら全てを捧げられる。心から愛した人だもの。だから、ずっとーー……私は、あなたを……。『馬鹿だなァお前!! 本気だったのかよ!!』。私の二十歳の誕生日。その日に結婚式を挙げる為に、夜中にあの古びれた教会で落ち合うという事になっていた。これから二人で過ごすのに困らないように家からお金を持ってきて、そうして向かった先で。後ろからナイフを刺されたと同時に言われた言葉。『嗚呼本当に、本当にするつもりだったのか? ……誰がお前みたいな「醜い」女と駆け落ちなんてするかっての!!』。……私は何か悪い事をしたのでしょうか。嫌われる様な事をしたのでしょうか。何も心当たりがないから、私の幸せを奪った彼が。今までの言葉を否定する様な言葉を言った彼が。だから、彼を……。) (3/29 22:09:08)
大和守.ノービア > (憎い。憎い、憎い。憎くて仕方がないの。だからね、復讐しなきゃいけないの。『美しい』って、あなたは確かに言ってくれた。だから私は頑張れたのに。あなたが居たから生きていたのに。)「…………ねぇ、貴女」(貴女に顔を近付ける。大きく目を見開いて、殺意に溢れた瞳で。記憶の中の彼の顔は、見えなかった。だからあの人に、問いに頷いたアシュトンにその怒りは全て向いている。これは『愛』なんかじゃない。醜い、怒りだ。全てを否定した『花婿』への怒りだ。だから、見つけて殺さなくてはいけない。銀の髪をベールと共に揺らめかせながら、首を傾げて問うた。)「アシュトンっていう名前の人、知らないかしら」 (3/29 22:09:10)
清瀬/ターラ > (『危害は加えない』なんて言われても信じられる筈がなかった。彼らは殺傷という快楽に、本能に抗えぬ禍々しいものだと何度も聞かされた。一度毒牙に掛かっているのだ、その恐怖の払拭などできる筈がないのも相まって貴方の言葉に耳を傾け理解する気はなかった。何かに苦しみ、悶え、葛藤するその姿すら脅威の化身に見えて、必死に逃げようとしても足がすくんで動かない。退路を振り替える事もなく、視線は依然として純白と程遠いくすんだ深緋の花嫁に囚われたまま。)「ひっ!!」(近付いた貴方に死の足音を覚える。目を瞑り腕で視界を遮るように顔を覆った。聞き覚えのある名前が示すものはその人の身の危険で、喉がヒュ、と一つ鳴って一瞬息が止まる。すぐ近くに歩み寄る殺意、もうすぐ死ぬのだろうか。貴方に意識を、考察を、思い遣りをやる余裕なんて何処にあるだろうか。不思議と涙は流れなかった、意味を持たぬ絶叫を放つこともなかった。) (3/29 22:40:06)
清瀬/ターラ > 「あ、アシュ………し、知ら……こ、答えることは……貴方に言うことなんて何も、なに…も……!」(嘘をつくというのは何処か憚られた。未知である貴方に自分は全てを見透かされていて、偽りでも告げようものなら、などという確証のない恐怖まで感じていた。視線を上げれば其処には滴る血の涙、何処までも黒い瞳。心は既に挫けかけているのかもしれない。ただ救済を祈った、それこそ神でも、鬼でも、何だってよかった。貴方の機嫌を損ねる回答でないことを、ただ祈るばかりだった。) (3/29 22:40:08)
大和守.ノービア > 「…………そう、そうですか」(怯える貴女に対する感傷を抱く余裕すら、今のノービアには無かった。言葉の全てが逆鱗に触れるかの様な鬱陶しい感覚。けれども『危害は加えない』と言った以上貴女に手を出す事は出来なかった。……否、そもそも手を出す気などない。全ての戦意やら殺意は『花婿』ただ一人に向けられていて。それに、記憶を一部取り戻した事によって女性を避けていた理由も何となくだが理解した。単純に、傷付けたくなかったのだ。理不尽に殺された私が、同じ様に誰かを殺してはいけない。そんな思いから、女性に殺意を向ける前に逃げ出したかった。男性に関しても同様。『花婿』以外に殺意を向ける様な事はしたくなくて、関係無い人を巻き込みたくなかったから。だから、知らないと言うのなら私は貴女を逃しましょう。貴女の言葉に小さく頷けば、近付けていた顔を離し、貴女から距離を取る。) (3/29 23:10:20)
大和守.ノービア > 「……なら、良いです。先程も申した通り、貴女に危害を加えるつもりはありませんので。私は此処で失礼させて頂きます……ごめんなさいね」(最後に、行き場の無い思いを向けてしまった事への謝罪を一つして。そのままノービアは赤い跡を残しながら立ち去っていく。段々と貴女から離れていき、そしてその姿は闇夜に紛れて消えていく。きっともう貴女に関わる事も、貴女に関わろうとする事も無いのだろう。これはきっと、一夜だけの偶然の出会いだろうから。)【紅の巡り】〆 (3/29 23:10:22)