誌洲&鬼若
出頭勧告蕨/誌洲 > (神島から帰投して数晩が明けた。盛冬に比べれば随分と伸びた日脚が傾き始めた頃合いに、誌洲は基地内の廊下を足早に歩いていた。採光の為所々に設けられた窓から差し込む斜陽が、白い羽織と仏頂面とを照らしつけている。その様相は、彼をよく知る者が見ればこそ眦の鋭さを、苛立ちを匂わせる刻み足を覚るかもしれないが、そうでない大多数の士卒からすれば至って平常通りだろう。──何だって俺が小間使いみたいな真似しなきゃなんねーんだ?狂水騒ぎが収まったかと思えば、次は影による変死事件。その黒幕でおわすイモータルが神島を占拠しているとかで、訳も分からぬ内に出征へ駆り出されたが、結局神島は連邦の領土となったらしい。死亡者数ゼロは帝國軍の意地と天運の恵みに他ならないだろうが、命に関わる重傷者は出た。その一人が当軍の鬼若という……大佐、だったと思う、確か。他の連中にそう呼ばれていた気がするし、何より先の元帥、頭を退いた現在は白梅大将だが、彼女が自ら後陣へと運び入れてきたのだから、推測するにそうなんだろう。大佐が彼女の腰巾着なのは、噂に不案内な俺でも知っている程度には有名だ。) (3/22 07:49:17)
蕨/誌洲 > (誌洲はようやく資料庫の室名札を認めると、些か乱雑に戸を数回叩いてから押し開く。中は紙類の日焼けを防ぐ為か、眩しさすら感じる廊下とは打って変わって薄暗く、いかにも閑散としている様子だった。)「……もしもしィ?巫子の者ですけどォ」(半ば捨て鉢気味にそう言いながら足を踏み入れれば、あまり赴いた記憶のないその空間の全容が見えてくる。背の高い書棚が幾つも立ち並び、綴じ巻やら典籍やらで所狭しと埋め尽くされていた。自分の詰めている医務室もこれだけ整っていればさぞかし気分が良いだろうな、と胸中で嘆息しつつも目的の人影を探す。至って標準的な声量で呼びかけた筈だが、これだけ本が犇めいていれば音が響きにくくても仕方がない。通りすがりの兵を何人か捕まえて、やっとここまで辿り着いたんだ。これ以上盥回しにされたらたまったもんじゃない、そう希望に縋るようにして書架の間を見て回り、遂に室内の隅の方にその人物を捉えた。) (3/22 07:49:22)
蕨/誌洲 > 「……ったく。探しましたよ、……佐官」(壁に肩だけを凭れるようにして、腕を組む。特徴的な長髪もそうだが、芯なく揺らぐ左袖を窺えば間違えようがなかった。恐らく自分の了見は正しい筈だが、念の為呼称を暈しながら声を掛ける。)「……何故医務室に来ないんです。腕を失ったんですよ。治療は受けたとは言え、やるべきことは山程ある」(例えば、経過観察。創部の消毒。鎮痛剤や軟膏の処方に、断端の扱いについての説明──誌洲は頭の中で項目を並べ立てながら、手の焼ける患者を睨め付けた。辛うじて敬語の体裁を保ちながらもやはり直截的な物言いは、相手が上官であるからという理屈、つまり社会通念を理解はしていても、それに則り切れない誌洲の偏屈さの表れだろう。) (3/22 07:49:28)
大和守/鬼若 > (資料庫。陰鬱で自棄に静かなその場所には、紙を捲る乾いた音だけが響いていた。後は時折固く響く靴の音か。イモータル討伐の為に神島へと赴き、左腕を奪われ失ったというのに鬼若は満足な後処理も行わず仕事を行おうとしていた。別に自分は困らないのだから良いだろうと、それよりも想い人の為に働き身を動かす事こそが大事なのだと、そんな思想を掲げて資料をぱらぱらと捲っていた所で。ふと、扉を叩く音と声が微かに耳に入りそちらへと目を向けた。よもやその──巫子が己を探しに来たとは思ってもいなかったのだろう。誰かを探しに此処まで態々来たのだろうと気にも留めずそのまま文字に目を滑らせていたのだった。)「……」(壁に肩を凭れさせ、腕を組む貴方を鬱陶しそうに見遣った。佐官、と呼ばれたのだからまさかではあるが己を探しに来たのだろう。ぱたんと丁重に資料を閉じれば元ある場所へと返し、左腕が無いせいで腕を組む事は出来ないものの貴方を睨む様にして見詰めた。) (3/22 12:09:49)
大和守/鬼若 > 「……治療さえ受ければそれで良いだろう。今の所支障は出ておらぬ。下らぬ事で手を煩わせるな。……早う、去れ」(貴方の言葉に、溜め息を一つ溢した。その言葉が全く正しくないと分かっていれば容易く跳ね除ける事にも抵抗は無かったのだろうが、なまじ正論だと理解しているが故に実に面倒臭い。腕を一本失ったとはいえ、今こうして動けているのだから問題ないだろうと。しっしっと犬でも払うかの様な仕草をして、それきり口を閉ざして貴方から目を背けるのだった。これ以上は怒鳴られたりしつこく話し掛けられでもしない限り会話を続けようとはしないだろう。また鬼若は並べられた書物を目で読み、側にあった資料を取り出して、貴方など眼中にでもないかの如く先程と同じ様に目を通し始めるのだ。) (3/22 12:09:51)
蕨/誌洲 > (『手を煩わせるな』──なるほど、そりゃ一本しかないんだから塞がれちゃ不便だろう。蛇のような鋭利さを宿した紅の瞳に射竦められながらも、誌洲は脳裏に浮かんだ不遜な買い言葉を軽く頭を振って掻き消した。俺は喧嘩を売りに来た訳じゃない、況して自身の首を飛ばされる為に来た訳でもない。それでも素気無く右手で追い払われてしまえば、これまで費やした時間と苦労とが去来する。それらを水泡に帰するその下知を二つ返事で承服してやる謂れはなかった。この膨大さを鑑みれば過剰とさえ思われる蔵書の数々の活用に戻る上官を眺めながら、誌洲はやれやれといった様子で口を開いた。)「そーすか、経過は順調と。……しかしね、診察に来ないような人間の自己申告を信用しろと言う方が無理があるな。こちとら大将から仰せ付かってんですよ……『此奴を頼む』と」 (3/22 23:52:47)
蕨/誌洲 > (蔓延る風聞は言わずもがな、それに加えて致命傷を負ったこの大佐に対する彼女のあの振る舞いを、眼差しを知っていればこそ、二人の関係が単なる懐刀に収まるのかは不明朗な所だ。特にこれといって興味はないが、それがもし暴れ馬の手綱に相当するのであれば利用しない道理もない。俺は億劫な巫子としての仕事を遂行したいだけだ。)「去れと仰るのであればその通りに致しますよ、佐官。ただ、アンタは高官だがまだ上はいる。将校の容態が軍にとっての一大事なのはお分かりでしょう、さ、大将にでも具申しますかね」(畳み掛けるようにお為ごかしを述べて、その場を立ち去る素振りも見せないままに小さく肩を聳やかす。さて、親愛なる白梅大将のお手を煩わせるのか、自らに残された一本腕を差し伸べるのか。聞かん坊はどちらを選ぶのだろうかと、腕を組み直しながら睥睨した。) (3/22 23:52:52)
大和守/鬼若 > 「…………ッ、は」(──『こちとら大将から仰せ付かってんですよ』『「此奴を頼む」と』──……。貴方の言葉を最初は無視するかの如く耳に聞き入れようとはしなかったものの、その二つを聞けば鬼若はぴくりと眉を動かし形容し難い言葉を溢した。それに特に意味など無いのだろう。食んでは脆く落ちる菓子の屑の様に。あの時は出血と痛みのせいで意識が朦朧としていたせいで、辺りの様子など気にする余裕が無かった。だがしかし、そんな事があったとは思いもしなかった。いや、それにしてもだ。)「………………」(続いた貴方の言葉に、鬼若は口端をひくつかせた。嗚呼、何時か前も想い人の事を話に出されて葛藤した事があったなと微かな既視感。それに深く浸る余裕すらなく、鬼若は悩んでいた。嗚呼、全く。想い人の事を話に出されては、そんな事を言われてはその言葉に従うしか無いじゃないか。『白梅』という二文字を出すだけで簡単に従わせる事の出来る扱い易い男だとは気付いて欲しくなかったが。) (3/23 19:59:44)
大和守/鬼若 > 「…………はぁあぁぁあ~~~…………」(深く、大きく溜め息を溢した。まるで降参だとでも言うようにがっくりと肩を落として、最後に堂々と舌打ちを一つ響かせては手に持っていた書物を元の場所へを戻して、貴方へ向き直った。)「……良い、良い……分かった、分かったから…………はぁ」(再度、億劫そうに溜め息を落とすと同時に降参の言葉が溢れ落ちた。気迫といったモノがほぼ失われた、その代わりに疲労に包まれた瞳をゆったりと貴方へと向けて。それでどうすれば良いのだとでも言いたげに、恨めしそうな表情を浮かべた。) (3/23 19:59:52)
蕨/誌洲 > (詰まらせた声に近い、這々の体で喉をすり抜けたというような言葉の残滓らしき音。曖昧に口から漏れ出たそれを、この静まり返った図書の海では聞き逃す方が難しい。恐らくは逡巡の証左であった沈黙が過ぎ、肺を押し潰したかのような長大息を耳にすれば、誌洲は我が意を得たりと僅かに口角を吊り上げた。悔し紛れの舌打ちすらも、不快どころか溜飲を下げる手助けにしかならない。降伏の宣言と共にこちらへと正対されれば、自らも寄りかかっていた壁から離れて佇立する。嘗て冷徹さを孕んでいた眼差しは、今や随分と人間らしくなって見えた。──ちょろいな、実に。失敬な心中を曝け出しこそせずとも、物憂げな上官とは対照的に生温く表情を緩めた。同時に効果覿面だった魔術、とすら言えないような単語のことを思う。歯牙にも掛けないといった頑なな態度をこうも一変させるとは、どうやら仄聞した以上らしい。小さく息を吐いて、手慰みに衿を正しながら細めた双眸を差し向けた。) (3/24 10:51:33)
蕨/誌洲 > 「ご理解賜り恐縮です。……早速と言いたい所ですが、こんな埃臭い場所じゃ仕事はできないんでね。俺は往診しに来た訳じゃない、あくまで勧告に伺ったまでです。……ですから佐官、“お手隙の際に”、医務室へご足労いただけますね」(語尾を跳ね上げて疑問符を付けることもせず、殆ど断定的な口調でそう告げる。彼も尊華人だから、含ませた意図は汲み取ってくれるだろう。こういった間怠い言い回しは本来好みじゃないが、厄介者の上官相手に嫌味の一つでも仄めかすには有効な手段だ。軽く会釈をし、野暮用は済んだとばかりに踵を返す。そのまま数歩行った所で、誌洲ははたと足を止めた。巫子としての雑務を終えた今、漠然といつだかの記憶が想起される──この資料庫自体に、何か用向きはなかったか。機会があればと確か……。暫し宙に焦点の合わない視線を漂わせていた誌洲は、程なくして悠揚と振り向いた。)「……あー、佐官。佐官はこの資料庫に入り浸ってるとか。……つかぬことをお尋ねしますが、明松、という兵に関する調書をご存知ないですか?」 (3/24 10:51:49)
大和守/鬼若 > 「……嗚呼、うむ。わかった、……承知した……」(──嗚呼もう、素直に頷くしか出来ないじゃないか。断定的に紡がれた言葉に鬼若は内心、再び溜め息を溢した。完全に弱味を握られた。己を上手く扱う為の言葉を知られたのだから、これ以上無理に逆らう事は推奨するべき行為では無いのだろう。上官だというのに一人の巫子に良いように従わされているこの姿を見られたらどうなるだろう。情けない己の姿に、何度目かになる溜め息を溢しそうになった所で。)「…………かが、り……?」(踵を返そうとした貴方が足を止め、振り返り口にした中の一つの字に全ての思考が消え失せ動きが止まる事になった。──だってその字は、……鬼若に、とって。)「……何故、…………」 (3/25 15:17:20)
大和守/鬼若 > 「……何故、そいつの事を」「彼奴について何を、調べようとしている、……のだ」(その言葉を紡ぐ弱々しさとは裏腹に、瞳の中には、敵意にも似た感情が浮かんでいた。まるで近付く人間から子を守ろうとする親の獣のような。鬼若は彼の最期を想いを、その果てを知っているのだ。彼はイモータルの為に軍を裏切ると宣言した者だ。だからこそ、軍の中には彼に対して良からぬ感情を抱いている者も多いだろう。もしも貴方がそんな思いを持っているのならば彼を守らなくてはいけないと。貴方に向けて、警戒と敵意とが入り交じった瞳を向けたのだった。) (3/25 15:17:23)
蕨/誌洲 > (誌洲は無闇に上官を司書と見做したのではなく、投げかけた問いは自分なりの合理的な判断に他ならなかった。一兵卒に過ぎなければ、不祥事扱いでもおかしくはない。存在するかも定かでなく、もし実在したとして、精々一枚の書面が関の山だろう──そう踏んでいたそれをこの膨大な資料の山から探り当てるなんて、それこそ浜辺の中から一粒の砂金を見出すような、やる前から徒労に終わることが分かり切っているような行為に割く時間を持ち合わせていなかっただけだ。加えて言えば、当該の人物についても深く関心がある訳ではない。ただ喉に魚の小骨が刺さったような違和感の正体に偶然思い至ることができただけだった。もし素気無く知らないと突っ撥ねられればそれまでで、まだ西日の暖かさが残る廊下へと引き返していっただろう。だからこそ鬼若の反応と、そこに含まれる感情は誌洲にとって慮外の出来事だった。名乗りもしない不躾な巫子は、今暫く蒼然たる文献の塒に留まったまま、袂を揺らし改めて上官へと向き直る。)「…………。……お知り合い、ですか?」 (3/26 12:43:17)
蕨/誌洲 > (今度ははっきりとした疑問を過去形にすることもできないまま、綻ぶ語調とは裏腹に再び険を取り戻した双眼と似たような色の虹彩を硝子越しに覗かせる。ただものを尋ねただけで睨まれるのは心外であると同時に、何某かの情報を握っているに違いないと収穫の予感が芽生えた。ただし、それを上手く引き出せるかどうかはまた別だ。無言を紛らわすようにして『いや、ほんの好奇心ですよ』と呟いた誌洲は、一拍置いて密かに嘆声を漏らすと、目を側めながら窮屈そうに詰襟を整えた。)「……あーそれとも、敢えて仕事の一環だとでも申しましょうか。……そいつのせいで飲んだくれた患者がいたもんで。何しろ寡聞なんでね……」(尤も尾鰭が付いた憶測なんて聞くだけ無駄だし、浮世話に知悉したいとも思わない。さて概ね本音は述べたことだし、佐官相手と言えどこれ以上は守秘義務に関わるだろうかと口を閉ざす。彼の意に適うかはともかく、こんな紙という引火性個体に塗れたこの場所で火花を散らす気はなかった。繕った態度を看破されて心証を一層悪くするよりはましだろうが、果たして。誌洲は今一度、言外に様子を窺いながら目線を送った。) (3/26 12:43:31)
大和守/鬼若 > 「…………知り合い……あぁ、……そう、だな」(貴方に向けている感情は少しも和らぐ事など無く、むしろ沈黙の時間が経つにつれて鋭く増していくばかりであった。知り合いなのかと問われれば、少し言葉に詰まってしまった。鬼若からしたら彼は……そう、『友』とも思える様なそんな貴重な経験があったのだからただの知り合いと答えて良いのかと返答に困った。だがまぁ、『友』と呼んでも良いのかなんていう今までに抱いた事の無い淡い想いは、もう死の向こう側へ身を委ねた彼には聞き様が無いのだけれど。貴方の言葉にまたもや口を閉ざした。『飲んだくれた患者』なんて言葉に少し突っ掛かりを覚えたものだから、思考を巡らせて記憶を辿った。彼の事を伝えに行った時、床に廃人の様になって堕ちていた彼女。もしかして篠の事だろうかという結論に至り、その時には炎も少しずつ鎮まろうとしていた。『そう、か』と、長い静寂の後に何処か和らいだ感情を吐き出して。) (3/26 15:14:50)
大和守/鬼若 > 「…………あー。……少し、待っているが良い」(先程までの態度を無かった事にするかの様に頭をがしがしと掻いた。とんだ早とちり。詫びる様にそう言葉を掛けては、確か彼処へあった筈だと記憶を頼りに一つの棚へと向かっていく。掃除が甘い様で仄かに積もっている埃を乱雑に払いながら、適当に引き出した物へざっと文字に目を滑らせ違う物は即座に見放す。それを数度繰り返して、やっと見つけた目的の物。乱雑に払ったせいでまだ纏う白の服を丁重に払いながら歩みを進めて、貴方の元へ戻れば『そら、これだ』という言葉と共に資料を差し出すのだった。) (3/26 15:14:53)
蕨/誌洲 > (やたらと歯切れの悪い肯定の言葉に、誌洲は差し向けていた目を僅かに眇めた。その響きに含まれる躊躇の実態など知る由もなくても、眼前の上官の黙考につられるようにして、誌洲もまた思索に耽る。顔見知りですらなければ、言い淀む理由はないように思えた。敢えて勘繰ってみるなら、単なる知り合いの範疇に収まる間柄ではなかったということだろうか。そしてまた、それが負の方向でないとすれば先程の態度にも得心が行くし、見るからに冷血漢といった風格を漂わせているこの佐官の葛藤をもし招いているのであれば──何だ、明松とかいう男は随分と気のいい奴だったんじゃないか、俺と違って。取り留めのない仮説、言わば邪推にようやく齎された終止符の微かな弛緩は、殆ど答え合わせに近かった。) (3/27 22:57:58)
蕨/誌洲 > 「は?……はぁ」(礼に欠けた相槌を誤魔化すように生返事を口にしながらも、上官に待機を命じられればそうする他ないのが軍職だ。所作からどこかばつの悪さを感じ取れば、後影を見送りながら壁に背を預ける。こんな所に予定外の長居をしてしまっているせいで、レンズの塵が気になった。眼鏡を羽織の袖口で拭っていれば、やや離れた書架から紙同士の擦れ合う音が小さく伝わってくる。暫くして軍靴の足音が帰り来る頃には、元通りの玻璃を通した相貌で鬼若を出迎えた。)「……あ、どーも」(ぶっきらぼうに感謝を述べて差し伸べられた書類を受け取れば、早速薄い綴本の頁を捲る。想像通りと言うべきか、事務的に報告が記された簡素な調書に過ぎない。それでも聞き齧った風説以上の情報は含まれているようだった。こんな些末な物の在り処まで把握しているなんて、この上官はもう少し出歩いた方がいいに違いない──そう考えながら文字列に視線を滑らせていき、やがて最後の署名に目を留めた。)「……お手数おかけしました、鬼若大佐。……あーそれと、もしかして飲んだくれの方にも心当たりがございましたかね?」 (3/27 22:58:05)
大和守/鬼若 > (……貴方が書類に目を通している間、手持ち無沙汰に鬼若は視線をきょろきょろと動かしていた。嗚呼それにしても、これからどうするかを考えると、気分が落ち込んでいくのは否めない。正確に言うのであれば面倒臭い。これを知られたら更なる皮肉が待ち受けているのではないかと予想して、嫌そうな顔と溜め息だけは何とか堪えたが。そんな思考も、貴方に声を掛けられれば泡の如く散っていく。一言目には『ああ』、と小さく返事を。二言目には、少しばかりの沈黙を挟むだろうか。『飲んだくれ』と聞いて鬼若が浮かぶ人物は一人だけ。けれども貴方の交友関係と己とは違うだろうし、と返答に悩む。まぁ別に、間違えても何かペナルティがある訳でも無いと、暫くしてようやく口を開いた。) (3/28 20:20:21)
大和守/鬼若 > 「……いや、合っているかは分からないが。飲んだくれなど其処らに居るであろうからな……」 (何せ、交友関係など無きに等しい鬼若ですらその『飲んだくれ』とやらを一人知っているのだ。巫子として患者などと多く接している貴方はその倍……比べ物にならない程知っているのではないかと。嗚呼否、正直これでもし間違えた場合はかなり恥ずかしい。『そうだな』と前置きを一つ。視線を貴方から外しながら、鬼若はそう返答した。)「篠……という女兵なら、余は知っているが」 (3/28 20:20:32)
蕨/誌洲 > (誌洲とて、別段さしたる確信を持って問いかけた訳ではなかった。大佐の言う通り、どうしようもなく酒にだらしない人間など吐いて捨てるほど存在する。お国の為に命を賭して戦うことを義務付けられ、上意下達で抑圧されがちな軍人ならば尚更だ。ただ、ひょっとしたらという可能性が脳裏を過っていたのもまた事実だった。明松のせいで飲んだくれた患者、という限定的な人物評を耳にして、尚もこの佐官が黙念する様子を認めていたからだろう。こちらから名前を出した所で本人は構わないかもしれないが、巫子としては些か問題がありそうだという懸念の末の折衷案だった。そうして躊躇いがちに鬼若が口にした回答は、誌洲が胸中に浮かべていた字に見事ぴたりと符合した。)「……はっ、あいつにこんな縁故があるとはな……」(半ば独り言のようにそう囁くと、一読したにも拘らず眺め続けていた調書から鬼若へとようやく目線を移す。意外と言えば意外だったが、この一見冷淡な堅物と彼女と明松とがどのようにして関係したのかが気になった。やはり大将絡みだろうか、と見当を付けた所で冊子を閉じ、凭れていた壁から離れる。) (3/30 12:31:23)
蕨/誌洲 > 「的中ですよ、大佐。……ちょうどいい、最近その飲んだくれがどうも居着きそうなんでね。医務室通いのついでに、適当にしょっぴいてくれりゃ有難い」(この資料庫でとぐろを巻くアンタに似ても困るし、という蛇足は既の所で飲み込んだ。個人的な胸三寸があったとは言え、曲がりなりにも仕事を頼んでしまったのは自分だ。後悔などと形容するつもりはないが、自然と喉元までせり上がってきた嘆息を押し殺す。改めて大佐へと向き直ってから数歩詰め寄ると、調書を殆ど押し付けるようにして手渡した。)「どうも、助かりました。……じゃ、俺はこれで。あー、診察には必ず来るように」(遠回しに返却を任せ、念押しし、ごく軽く一礼をしてから今度こそ白い羽織を翻す。『まあ、その際には茶の一杯でも淹れて差し上げますよ』と最後に言い添えてから、誌洲は望外の収穫を得た資料庫を後にしたのだった。)〆【出頭勧告】 (3/30 12:31:37)