篠&氷原

早春賦

マリア/篠 > 「こげん朝はよで、迷惑じゃらせんかったかなぁ……」(いつもと違う下ろし髪を手ぐしで梳きながら、軽く居住まいを整えて篠は呟いた。時刻は9時、本日晴天なり。誌洲の取り計らいで、篠は千景神社の境内で行われる朝市に来ていた。未だ大陸は混乱の最中にあるとは言え、食料品の買い出しくらいはお天道様も多めに見てくれよう。尊華帝国は他の二国と比べてまだそういった余裕があるだけましだった。)「あ、少尉……おやっとさ……はおかしかですね、んーと……」(青竹の柵に凭れて一足先に待ち合わせ場所についていた篠は、思わずいつもの癖でお疲れ様ですと言いかけてから気恥ずかしそうにはにかんだ。『こ…こんにち…おはようございもす?』とぎこちなく挨拶をし、地面に降りて足を揃える。)「わー……なんだかハイカラ…?じゃなあ……着物にシャツを合わすなんて、しゃれてらして……」   (3/20 17:59:56)


マリア/篠 > (軍服姿でないとずいぶん印象も変わって見えた。決して目が肥えているわけでもない篠から見ても上等のものをまとっている事は解ったし、何よりもすらりとした長身に様になっていると思った。誌洲に釘をさされない限り男物か女物かも解らぬ普段着で来るつもりだったが、そうでなくてよかったと思う。決してめかしこんで来た訳でもないが、伝統色の強い花柄のゆったりとした旗袍、生成りの毛糸羽織に控えめな布靴。氷原少尉に比べればまだ素朴だが、彼女なりに時と場を弁えた選択だ。)「あの……具合が悪うなったや、いつでん言いたもんせ。無理して付き合う事なかですから。」(病弱らしい彼を軽く気遣った後、いつも竹籠を両手できゅっと握る。カゴの中でちゃぷ、と水の音がした。)   (3/20 18:00:01)


ゑゐりあん/氷原 > ふぁ…。…あぁ、おはようございます…(大きな欠伸をしながら現れたのは氷原。帝国軍少尉の彼だが、今日は私服である。…と言っても流石に好んできている病院患者のような襦袢ではなく、ちゃんと綺麗な着物であった。これは実家からの贈り物であったが、長らく使うことも無く押し入れに仕舞っていたものである)あー…うん、ありがとう。篠さんも綺麗だね。いつもと違う印象だよ(淡々と相手の服装を褒める氷原。とは言ってもこの話し方が通常運転なので別におだてている訳では無い)うん大丈夫。…無理をしたらまた先生に迷惑かけちゃうし…。…それよりもありがとう。一緒に買い物に付き合ってくれて。…って言っても、俺は先生に言われるがままにここに来たから、正直具体的な目的はよく分からないけど…(未だ誌洲の意図を掴めずにいた氷原は篠とのこの買い物がなんの意味を指すのかを理解してなかった。ただ、前々より友人になりたいと思っていた篠である。この機会を活用させてもらおう)それで…これからどうするの?俺は別になんでもいいけど…(と篠に尋ねる。相変わらず受動的な男である)   (3/20 18:07:54)


マリア/篠 > 「綺……あはは!お上手じゃなあえ。」(あちらに”そのつもりがない”と解ってはいても、からかう事もなく真面目な顔でそう言われればやはり照れ臭かった。あまり真に受けぬようにと思いつつも、朱に染まった顔の前で手を二、三回振ってごまかす。)「いえいえ、こちらこそ。……へ?は、はぁ……そうなんですか。」(誌洲の口ぶりからして、自分と同じようにして氷原少尉に話をつけた訳ではなさそうだということは察しがついていたものの、そうまで『よくわからない』と言い切られると戸惑いを隠せなかった。建前でもなんでも無い限りにはこちらとしてもやりにくい。『やっぱり先生は罪じゃ、こいじゃ丸投げと変わらん』とまたしても胸中で悪態をつき、けれどもこちらが逢引のつもりで会っていると想われている訳でもないのは有り難く、なんとも言えない渋い顔でうーんと唸った後に、思い出したように竹籠からあるものを取り出した。)   (3/20 18:40:52)
マリア/篠 > 「あ……前ゆっちょった水筒をこさえて来まして、渡そごたって思うちょったんですよ。はい、こいで目的は達成です。」(青竹で作られた水筒を氷原少尉に手渡して、ついでに彼の疑問を解消する。)「お時間があればこん後、先生に果物でも買うて帰りもんしょうか。あ、ほら。サクランボが売っちょりますよ」(そして露天の箱の一つを指差して、さりげなくそちらへ促そうか。)   (3/20 18:41:12)


ゑゐりあん/氷原 > 上手も何も…別に見たままなんだけど…(おだてに思われたのならちょっと心外である。そもそも氷原は思ったことを脊髄反射で話す人間であるから、おだてなんて滅多に言わない。そう彼女に言おうと思ったが、それもまたおだてだと思われるのも面倒なのでやめた。すると彼女が竹籠から水筒を取りだし渡してきた)え?(きょとんとした顔で受け取る氷原)これ…覚えててくれたんだ…びっくりした…(本当にびっくりしたようで、瞬きを繰り返す氷原。そして柔く微笑み礼を述べる)ありがとう。…是非使わせてもらうよ(なんて言うと早速水筒を開け水を飲む)…ん、飲みやすいや(どうやら気に入ったようである。水筒を袂にしまうと誌洲への果物を買おうかと提案される)…あぁいいね。あ、そうだ。それと平行でいいからさ…美味しいみかんの見分け方…教えてくれないかな?…あの時貰ったみかんが美味しくてさ   (3/20 18:48:44)


マリア/篠 > (少尉による追撃の一言を都合よく聴き逃がせる程図太くもない篠は、赤い顔を俯かせて黙りこくっていた。何と返すのが正解かも解らず、もはや『勘弁したもんせ』と言いたいくらいの心境であったが、当の少尉としてはどうやら深い意味があるわけでも、篠の反応を待って居たわけでもないらしい。話題が変わっていくらかほっとしつつ、水を飲む氷原少尉を微笑ましげに見つめていた。)「気に入って頂けたんなら良かったとです。さ、ちょっと冷やかしてみもんそか!」(緩い石段をひとつ二つと降りながら手水場を通り過ぎる。みかんについて言及されれば、よっぽど気に入ったんだな、とまた頬を緩めた。)「   (3/20 19:18:29)
マリア/篠 > 「少尉がそれほどのみかん好きとは……じゃっどん、私の選び方じゃなって、こん朝市がすごいんですよ。みかんだけじゃなくて、なんでも美味かですから。」(そう言うと露天の一つに立ち止まり、『おじさん、一袋くれん』と声をかけながら硬貨を手渡した。露天の主は箱に山盛りになったさくらんぼを小さめの巾着いっぱいになるまで入れ、巾着の紐を天秤に引っ掛ける。釣り銭と共に受け取ったさくらんぼの袋を少尉に手渡し、)「たべてみたもんせ」(と笑った。)   (3/20 19:18:35)


ゑゐりあん/氷原 > うん。そうだね(彼女の後をついてゆき、一緒に果物を冷やかすことにしようか。…みかんを魔術で冷やして食べるとおいしいかもしれない)みかんは小さい頃によく食べたからね。うちの地元は寒い場所だったからみかんが良く採れてね。それで好物になったってのもあるけど、それ以上に懐かしいんだ(いわゆる故郷の味。故郷の名産品はまた別にあるが、それでも懐かしいことに変わりはない。風邪で寝込んでいた時のこと、両親や兄弟が料理と一緒にみかんを運んできてくれて一緒に食べていた。一緒に食卓でご飯を食べれない氷原にとっては、そういった時間が数少ない家族団らんだったのだ。そんなことを思い出しつつ彼女の後をついてゆくと、とある露店の前に止まり店主にさくらんぼを一袋注文した。きれいな赤いさくらんぼ。さくらんぼも大好きだ。金を払い、袋と釣銭を受け取った篠は氷原に袋を渡してきた)食べていいの?(だが、断る意味もないしなんなら今食べたい気分だったのだ)   (3/22 21:44:05)
ゑゐりあん/氷原 > …じゃぁ遠慮なく(そういって袋からさくらんぼを一つ手に取り口に運ぶ)…ん、甘い(甘さの中に仄かな酸味を孕むさくらんぼ。ただただ甘いだけでは感じられない味の深みが、酸味があることでよくわかる。そうしてさくらんぼの果実を食べ、持参したちり紙に種を吐く。そしてちり紙を丸め再び懐に戻して笑顔を浮かべる)ありがとう、とてもおいしいよ。篠さんも食べてよ。篠さんが買ったんだから篠さんが食べなきゃ(今度は氷原が篠に袋を渡す)   (3/22 21:44:07)


マリア/篠 > (さくらんぼを食べ、お礼を言う氷原少尉は舞台役者顔負けの端麗な容姿に似つかわしくない、なんと気取らない人であろうか。勧められるままに篠もさくらんぼを口にする。ぎゅっと甘さの詰まった瑞々しい味が春らしくて、やはりその美味しさを分かち合いたいと思う人の顔を思い浮かべるのだった。)「うんめかですねぇ。……あ、種飲んでしもた!あははは……」(気取らぬ氷原少尉と、飾り気のない篠の間には平和そのものといった空気が流れる。ここのさくらんぼは当たりだったから、みかんもきっと美味しいだろう。そのまま座り込んで隣の箱にあるみかんを物色しながら、選び方を少し指南して差し上げることにした。)「みかんはですね、手に持った時にずっしりと重う、きめの細けもんを選ぶと良かですよ。そいからヘタが大きかもんよりは小せもんの方がよかごたです。……良いみかんじゃ。ここのにしもそんか、私も誌洲先生に買うて行っじゃ。」   (3/22 23:47:46)
マリア/篠 > (今日のことを取り計らってくれたのだし、土産くらいおかしくはないだろう。そう決めるとまた竹籠から財布を取り出し、金を払った。誌洲先生といえば、氷原少尉は何と言われて此処にきたのだろうという事が気になってきた。よくわからないとは言っていたけど、そんなことってあるんだろうか……。)「あの……そういえば少尉は……先生に何と言われていらしたとですか?言われるがままっちゆても……何も聞かずに篠と会うてこいとか言われたとですか?」   (3/22 23:47:51)


ゑゐりあん/氷原 > 飲み込んだって…。…臍から芽が出るかもね(種を飲み込んだという篠の豪快っぷりに驚きつつ、子供の頃には1度は誰でも怯えたであろう冗談を言う氷原。彼が冗談を言うのはリラックスしている証拠である。すると篠がみかんの見分け方を教えてくれた)なるほど…そんな見分け方はあるんだ…。凄いや。じゃぁ折角だし俺も買おっかな。先生の分と俺の分(そう言って取り出したこれまた妙に高そうな財布。育ちの良さを感じさせる財布だった。その財布から取り出した金を店主に渡し、みかんを受け取る。すると篠が誌洲が何を言っていたのか、と尋ねてきた)え?先生が?えっと…確か先生が俺を好きって言って、で諦めさせてくれって言い出して…。で、篠さんと2人で出かけて……。…あぁあと性交渉って言ってたな(あの時の記憶は、突然の誌洲の爆弾発言でほぼ上塗りされてしまっているため、中々思い出せない。しかし思い出した記憶を更に掻い摘んだ結果がこれなのだから救われない)   (3/23 00:11:55)


マリア/篠 > (とんでもない事を、この少尉は顔色も変えずに言ってのけた。立ち上がっていた篠は口を真一文字にして目を見開き、胸元にかかえていたみかんの袋を取り落とす。どさどさどさと音がして、みかんは辺りを転がっていった。)「……えっ、あぁ…そ、そそ…そうなんじゃあ……」(必要以上に驚いてしまい、失礼だっただろうか。なんでもないように取り繕おうとした口調も端からほつれるように吃って戸惑いを顕にした。男同士であるからととやかく言う権利もつもりもないが、何も思わないと言えば嘘になる。それは決して、男女で恋愛をすべきなどという先入観やら少数派排除の思想やらではない事は断っておきたいものの、立派な家柄のご子息に産まれたらしい氷原が世間の風当たりやらを受けないはずもなければ、あの隙のない誌洲がそれらを承知した上で情熱的にも愛の告白をしたようだという事実に驚かぬ鉄の心臓は持ち合わせていない。)「そう……ですかぁ……。」(今なら臍から芽が出ても驚かないかもしれない。いや、それはない。驚く。篠はなんとも言えない心のざわめきを自分で落ち着かせながら、腰をかがめてみかんを一つ拾い上げた。)   (3/23 00:48:40)
マリア/篠 > 「……せ…せいこうしょ……」(誌洲先生は、本当に罪じゃ。みかんを一つ、もう一つ広いあげながらなんとか思考をまとめていく。どうだったかとは聞かないでくれとは言ったものの、そこまでの事情が絡んでいるともなれば話は違う。自分はどうしたくて、そしてどうするべきなのかを考えた。)「……そしたら……少尉……」(みかんを全て拾い上げ、袋に戻して立ち直す。氷原少尉を見上げながら、少し躊躇して、もう一度見上げて。喉を鳴らして、それからひとつの提案をした。)「……私達……”うまくいった”って、そ……そげん事にしちょきもそんか」(篠と氷原少尉は結ばれました。そう彼を欺いてしまおうと、篠は言ってのけたのだった。)「先生んお気持ちは……わかりもはんどん……諦めんないけん事情とか……そりゃ、あっやろうし……。そいで先生が、なんやろう。安心?すんなら……先生だって結婚とか……せんないけんかもしれもはんもんね。うん、うん。」   (3/23 00:48:49)
マリア/篠 > (淀みつつもどこか隙なく、篠は言葉を連ねた。自分は何をしでかそうとしているのか、その心の奥底にある思惑はまだ見てみぬふりをする。)「嘘をつく必要は、なかですよ。少尉はただ……『篠さんのさくらんぼを貰った』て、先生の目をまっすぐ見つめて、意味深に、そう言えばよかじゃ。」(そう、こんな風に。篠がたった今まさに静かな圧をかけながら氷原を見つめているように。食ったのかと言われたら、『食べたよ』と。美味かったかと言われたら、『美味しかったよ』と。そう言えばいい、言ってしまえと、篠の心は言っていた。そうすれば、そうなれば自分は─────)「……帰りもんそか。」(また、あの医務室に行けるじゃないか。)〆【早春賦】   (3/23 00:48:58)