セオドア

さいごの人

清瀬/セオドア > (ホーリアよりウェントを見張る旅団。カンタリは奪われ、マージも此度狙われた。ただ皆の帰りを待ちわびる男、セオドアの待つ執務室に、軽くも焦りを孕んだ木の音が鳴る。)「どうぞ、入って」(いつもよりも切羽詰まった様子でドアノブを捻ったのはケイトだった。頭に包帯を巻いた分かりやすい怪我人を「よく無事で帰ってきてくれた」と言葉で労ると、手元のリストに視線を落とす。彼女はアレナ城を防衛した内の一人、現地から戦況報告に一足早く帰って来たというところか。何かを言い出しかけて言葉をつまらせる、というのを数回繰り返すケイト。いつもは悠々としており取り乱すことの少ない彼女がこれ程までに焦燥を露にしているのだ、きっとマージは落ちたのだろう。ヘスティアは、基地を防衛していた皆は無事だろうか。『────っ。ヘスティア……万騎長が…………』。今にも咽び泣きそうなケイトの顔で、何を言わんとしているかは十分に予感できてしまった。それが嘘であることを心のどこかで希望として探しながら、永遠のような刹那を畏れ、逃げ出したい衝動を必死に抑える。   (3/13 17:58:13)
清瀬/セオドア > 『────旅団の、ギゼムと名乗る男と、死闘を………。アデルグント騎士団長が……治療にあたりましたが…………』『────使命を、全うし。先刻……マージの、地で……っ、逝去……されました…………』)「…………そう、か。伝言お疲れ様……どうしたの?もう下がっていいよ」(唯一つの、誰よりも燃え盛っていた灯台の火が消えた。確かに伝えられた残酷な現実を受け止められず、無理やりな笑顔が顔に張り付く。圧をかけるような重厚な口振りで下がるように指示すると、『失礼しました』と小さな言葉が聞こえて扉の向こうに逃げていく。──太く短く、可憐に咲く一瞬の花火のように美しかった彼女の、風に散る火の粉すらもう見ることはできない、残り香すら追うことはできない。重い足でこの事実を伝えにきてくれた騎士に悪いことをしてしまったという意識はあった。己に無かったのはそれを抑えられる程の強い心。暗く沈んだ瞳は直接ケイトの方を見ることはなく、報告書に記された魔術師達の字の、一番下、会戦へと向かう為に後から向かったヘスティアの文字を捉えていた。)   (3/13 17:58:34)
清瀬/セオドア > 「…………はは、やってくれるね。諦めさせ方まで意地の悪い人だなぁ、ヘスってば」(紙が滲んだ、視界も水中に溶け込んだ。熱く痛む目頭を指でどれだけ抑えても、溢れる泪は益々酷く流れるばかり。考えることはどこまでも浅ましい。オレの愛したヘスティア、その末期の眼にはアデルグントが映っていたという。きっとこの思いを堂々と伝えることはなかっただろう、あるとすればこの制服を脱ぎ捨てる時、それは騎士団の崩壊の時。それでも彼女は眩しくて、こんなくすんだ己の隣に置いておける勇気はなかっただろう。きっとどう足掻いても、何度過去をやり直しても結ばれぬ運命だったのだ。梅の木に桜は咲かない、咲くのを待ち惚けていたオレの目を、彼女は悪質に覚ましてくれた。アデルグントが、治療にあたった。そんな言葉を反芻して、また最低な思考が過る。ヘスティアはアデルグントを最期の人に置いた、結果論だろうがそこに何の思惑もなかろうが同じ事。彼女には負けたのだ、消え行くヘスティアの意識に、オレはアデルグントよりも薄く終えてしまった。   (3/13 17:58:37)
清瀬/セオドア > きっとヘスティアは、こんな事ではなく終焉まで騎士団の、国の、皆の為の女で居ただろう。それが容易に想像できるからこそ、優劣なんてものを考える自分が哀れなことこの上ないのだ。)「ヘス…………」(どれだけ名残惜しく厭らしく呼んでも、“セオ”と呼んでくれる人はもう居ない。いつか来ること、今までもあったこと。万騎長の殉死、騎士としては誇らしいことじゃないか。戦地に散った英雄は星の数ほど居る、彼女ばかりが特別ではない。この悔しさは旅団に対する恨みで、この焦燥は失った戦力の埋め方が未だわからぬから。……違う、。彼女が“騎士団長”として死んだ日から暫く後。洗った絨毯、ゴミ箱の中のお菓子の箱。確かな温もりと、呼びあった愛称。そう、あるではないか。たった独りだけの、オレが最後を浚った瞬間が、自分だけの彼女が。徐に立ち上がると来客用の、訪れる皆が座る方のソファに腰掛ける。当然ながら冷たくて、人肌とは程遠くて、不甲斐なさに自立の力すら抜けてしまった。)   (3/13 17:58:54)
清瀬/セオドア > (万騎長であるから、元騎士団長であるから、なんて単純な理由ではないだろう。彼女の死を弔う人は沢山居て、己はその有象無象の一人でしかない。恋と呼ぶには障害ばかりで、愛と呼ぶには穢れ多き想い。綴るのは聞き届ける者の居ない贖罪、どうかこれをヘスティアが聞いているのならば、罰はうんと重く、そしてこの世で長く苦しめるよう下してくれ。多くの人に慕われた、そして疎まれた、太陽のような彼女の消失に、とある浅ましい一人が項垂れ静かに嘆いた。そんな小さな後日譚。)「──オレはきっと」【さいごの人】   (3/13 17:59:18)