誌洲&氷原

処方箋

蕨/誌洲 > (早朝。新たなる一日の到来を告げる、やたらと春めいた陽光が窓から注ぎ込んでいる。細かな埃がちらちらと乱反射する如何にも暖かそうな淡い橙の天日とは裏腹に、室内は未だ彼は誰時に取り残されたままらしく、さながら鍾乳洞のように冷え込んでいた。まるで寒さに耐える為だけの清潔な監獄だが、却ってそれが冬の医務室の本来あるべき姿のような気さえする。誌洲はすっかり背凭れに体重を預けながら、腕を組み、目を瞑っていた。仮眠というよりただ眼球を休めているに過ぎないが、それでも一時の憩いには違いない。平時ならありふれたこんな時間ですら、今は何物にも代え難いほど貴重だった。──三年振りのこの狂水騒ぎが起こり、早二週間が過ぎる。医務室の満床続きも仮設病室の配置で随分と緩和され、この時間帯であればようやく一人になれるだけの寸暇を得られるようにもなった。とは言え正確に表せば人待ちであり、寛ぎなどと称するのは少し違う。昨夕、通りがかりの兵を捕まえて、この尊華帝國軍の少尉宛に言伝を頼んだ。明日の朝一番、医務室に来い、と。)   (3/8 22:00:24)
蕨/誌洲 > (──千尋の眠りの峡谷に垂直落下しないよう巡らせ続けていた思考を、次第に近付いてくる文字通りの軍靴の響きが遮る。駆け込んでこなければ急患ではない、となれば呼び出していた彼の人だろう。扉の前で足音が止むのを見計らい、毎度の無愛嬌で『どうぞ』と一言投げかける。戸の軋みと共に徐に瞼を細く開けば、見慣れた筈が妙な懐古すら感じられる担当患者の姿が疲労で濁った瞳に映った。)「……よお。よく来たな。……出征お疲れさん」(自身の嗄れ声のざらつきを誤魔化すような咳払いを挟みながら、誌洲は木製の腰掛けを脚で小突くようにして押しやり、そこに座るよう促す。今日ばかりは目の隈の濃さもいい勝負かもしれない。最後に会ったのは確か騒動前、薬の処方の為だったが諸々折悪く、慌ただしかった上に常備するには充分な量を渡せずにいた。生憎だが、どんなに上物でもみかんでは代替にならない。机上に置かれていた大判の紙袋を手前へ引き寄せると、中身の漢方を確かめ始める。特有の清爽な香りがふわりと漂った。)   (3/8 22:00:28)


ゑゐりあん/氷原 > こんにちは、先生(「どうぞ」の言葉に促されて開けられた扉の前に立っていたのは見るからに具合の悪そうな血色の悪い長身で白髪の男。帝国軍少尉の氷原だった。しかし、担当医である誌洲の目から見れば、今の氷原の体調は随分と良いということがわかるだろう)うん、ありがとう。でも…先生も随分と疲れてるんじゃない…?隈とか…結構すごいよ…?(椅子に座りつつも、誌洲がいつもよりも疲れていると判断する氷原。これは、先程の医者目線で見た氷原とはまた別の、「友人目線で見た誌洲」である。長い付き合いであるが故、誌洲の疲労が溜まっていると判断したのである)ごめんね…?その…こんな忙しい時に俺の薬とかの用意をさせちゃって…(目を伏せ申し訳なさそうに漏らす氷原。ただでさえ今は謎の奇病が蔓延している状況で誌洲はあちこちを駆け回っているというのに、自分というお荷物のせいで薬の処方もしなくてはならないのだ。誰かの役に立ちたいが故になった軍人だと言うのに、その役に立ちたい相手に手間をかけさせてしまっている、迷惑をかけてしまっている。その事実が悔しくて、腹立たしくて、氷原は握り拳を握りしめた)   (3/9 22:02:19)
ゑゐりあん/氷原 > あ…でも最近は体調もいいし薬を減らしてくれても大丈夫…かな…って(実際、最近は体調をあまり崩してはいない。…が、その状態に胡座をかき薬を減らしたりするとあっという間に体調が悪くなってしまう。これは昔からであり誌洲もよく知っていることだ。…が、それでも氷原は少しでも誌洲の負担を減らそうとそんなことを言うのであった)   (3/9 22:02:21)


蕨/誌洲 > 「あぁ……お前に言われるようじゃ、もう少し寝た方がいいな。……そっちは……調子良さそうで何よりだよ」(心配りの言葉に一度手を止め、誌洲は長年の担当患者を見遣る。じっと観察の視線を送れば、さながら日陰に萌え出た草の芽、長身痩躯を体現したような眼前の男からは、白い蓬髪からまでも徒長した植物のような印象を受ける。相変わらずだ。それでも今の自分より咳嗽が少ない時点で、結構なことに当人比状態が良好なのは間違いなさそうだった。過詠唱で擦り切れつつある自身の喉を宥めるように摩る。この器官の頑健さも、魔術師の資質の一つであることは論を俟たないだろう。再び作業へ戻ろうとした所で、不意に鼓膜を擽った彼の謝罪に思わず怪訝そうな表情を向ける。双眸を伏せたまま膝の上で握り拳を作る氷原の思考は、共感こそ出来ないものの旧知の仲である誌洲にとって理解するのは容易かった。──こいつ、また下らねぇこと考えてんなぁ。誌洲は今度こそ薬の数々を取り出しながら、ぼそぼそと声を漏らす。)   (3/10 20:23:03)
蕨/誌洲 > 「……謝られる筋合いはない。俺は……お前の担当医なんだし」(寧ろ、責められてもおかしくないのは自分だ。前回の不十分な処方も、こんな朝早くから呼び出したことについても。無論、こちらにはこちらの都合がある以上、自分の落ち度だと負い目を感じるつもりは更々ない。それでも素直に詫びを受け入れるのかと言えば、それも願い下げだった。──氷原からも確認できる位置へ、卓上に白い紙製の薬袋を一つずつ並べ立てていく。その様子を見てか、浅慮も甚だしい殊勝な気遣いを口にした患者を睥睨すると、言及しないままに揃え終えてから、ようやく身体ごと向き直った。)「咳止め。胃腸。……不定愁訴。こっちは頓服」(順に指で示しながら、簡潔に症状と用法だけを掻い摘んで伝えていく。滋陰至宝湯、六君子湯、加味逍遙散、半夏厚朴湯……氷原自身聞き飽きているであろう堅苦しく煩雑な文字の集合体を読み上げるのは余りにも非効率的だ。中には女性向けの物すら含まれる、どれも体質虚弱向けの漢方を手提げ袋に詰めることもしないまま、誌洲は束の間の沈黙を徐に破る。)   (3/10 20:23:08)
蕨/誌洲 > 「……折角この騒動に巻き込まれずに済んだってのに、わざわざ幸運を無駄にするような真似すんじゃねぇ」(実際そんな有難迷惑よりも、こんな非常事態に見舞われているからこそだろうか、他愛ない話の一つでもして貰った方がよっぽど恩に着るという心境だった。勿論、氷原が無事でいることは、こうして相対するまでもなく分かっていた事実ではある。将校が被害を受けていれば、巫の者が駆り出されない道理がないからだ。最も低位の少尉であれど、言わばトリアージの最優先治療群に織り込まれていることは明白である。取り分け氷原は誌洲の受け持ちなのだから、何の報せも届かない時点で発症を免れたことは推察していた。それでもやはり、こうして普段通りの姿を拝めたことには安堵に近いものを覚える。含意などない。肉体というよりも、散々理性を損なった兵を診てきた。ただでさえ瘋癲の気が強いこいつが罹患していれば、いよいよ手の施しようが無くなっていたのではないかと末恐ろしかったからだ……それに尽きる。)   (3/10 20:23:13)
蕨/誌洲 > 「……あー、そうだ。お前会ったって言ってたよな……篠と。あの、みかんの女だよ。……どうだ、何か話したりしたか?」(誌洲は項を掻きながら、空いた期間と無言を埋めるように以前の話を持ち出した。他者との交流、即ち人間関係の因子は、七面倒臭いと同時に氷原にとっては今一つ欠けがちな要素であるというのが誌洲の手前勝手な分析だった。すっかり長期記憶として定着した女兵の、どこかあどけなさの残る顔貌を思い浮かべる。果たして自分は患者との対話を試みているのか、単なる個人としての憂さ晴らしに過ぎないのか……胸中では漠然とした禅問答を繰り広げながら問いかけた。)   (3/10 20:23:20)


ゑゐりあん/氷原 > うん。…俺が倒れるよりも、先生が倒れた方がみんな心配するだろうし、俺も悲しいから…うん(しょっちゅう何かしらの病気である氷原が倒れたと聞いても、周囲の人間は「またか」としか思うまい。そういう思いで言った言葉であったが、悲しいかな。無意識ながらに自虐も入っていた。この男、親しくない他人と会話をする際はそうでも無いのだが、親しい人間と会話する際は無意識に自虐してしまう癖があるのだ。常に自分を下に見ている。“自分の存在そのもの”がコンプレックスである幼少期からの癖なのだが、指摘されても治らない悪癖であった。そしていつも通りの薬の説明を受け、逐一合図値を打つ氷原。これほど多くの薬を服用しているにも関わらず、氷原は常日頃から何かしらの病を患っている。現在も調子はいいだけであり、軽度の風邪をひいているのだ。家族と共に過ごす時間よりも病魔と共にする時間の方が圧倒的に多い。そういう男だ。そんな氷原の自責の言葉を受けた誌洲の返答を受け、咄嗟に謝ろうとする氷原。しかし謝ったところでどうしようもないと思い喉まで出かかった言葉を呑み込む。そういえば、前にも竜灯から似たようなことを言われたのだ)   (3/10 21:00:20)
ゑゐりあん/氷原 > …ダメだな…俺…(誌洲に聞かれぬように、小さな声で己を責める氷原。変わらぬ自分。変われぬ自分。自分のために言ってくれた事さえ実行出来ぬ無能。約立たず。そんな人間が生きている。誰かに頼りながら生きている。嗚呼、反吐が出る)え?…あ…あぁ、篠さんだね。まぁ、話たと言えば話した…かな…?みかんの話をしたよ。あのみかん、とっても美味しくてさ、カイナント攻めの時にも持って行って食べたんだ。先生も食べた?美味しいよね、あれ(篠の話を振られてみかんの話をする氷原。大事に大事に食べていたみかんだが、もうそろそろ無くなりそうなのだ。また会えたら貰えないか聞かなければ)   (3/10 21:00:59)
ゑゐりあん/氷原 > 篠さん、とてもいい人でさ。友達になりたいなぁって思ってて。…あぁ、あともう1人友達が出来てさ。竜灯さんって人なんだけど、先生知ってる?あの人、元気だけど優しくてさ。面白いんだ(気のせいかな。竜灯や篠と言った親しい人間の話題を口にした途端、顔も声も嬉しそうになった。親しい友人。それは氷原の原動力でもあり、数少ない心の支えでもあったのだ。もし氷原に親しい人間が一人もいなければ、元来の卑屈さでとっくの昔に心が砕け散っていたかもしれないほどに、その存在は大きい。無論、その中には誌洲も含まれているのだが)   (3/10 21:01:01)


蕨/誌洲 > (まるで自分なら倒れても問題がないというような氷原の自虐的な言い草は、全く正確とは程遠い。一介の巫子に過ぎない自分と、少尉という階級に座している氷原とでは帝國軍に於ける重みは秤に掛けるまでもないのだから。補足すれば、軍人としての価値を除いても、氷原が想像するような慕われる先生像と自分は随分かけ離れている。それを残念とすら思わない。氷原少尉の方が余程心根の優しい、人望を獲得するに相応しい人物であると誌洲は推断するが、わざわざ否定してやるのも無意味と見做した。本人にとって上滑りに過ぎなければ、火に油を注ぎ、この男を更に頑なにさせるだけだということも何となく察しが付く。それを証明するかのように零れた囁き声は、噛み殺した欠伸にすら掻き消されていた。)   (3/11 00:36:47)
蕨/誌洲 > 「……お前アレ、攻城にも持ってったのかよ。まあ……そうだな、甘かったけど」(あの時も慌ただしかったこともあり、一つ二つを取り置いて適当に巫女や患者に配ってしまったが、確かに上等の代物ではあった。御曹司である氷原を唸らせるということは、篠の鑑識眼は一廉のものなのだろうか。そう言えば出身を尋ねたことはないが、あの訛りだから田舎の地物なのかもしれない。それにしても、みかんについて呑気に語らう氷原と篠の図を思い描くと、決して穏健とは言えない自分ですら毒気を抜かれてしまいそうになる。依然として落ち着いた語調で、それでも言葉の端々に喜びを滲ませながら、目論見通りの四方山話を聞かせてくれる氷原に耳を傾ける。友達が出来たとの発言に僅かに驚き瞳を丸くすれば、次いで告げられたその字に視線を漂わせた。)   (3/11 00:36:53)
蕨/誌洲 > 「竜灯。……ああ、知ってるよ。へぇー、お前がね……まあ、良かったじゃねーか。色々教えて貰えよ、火遊びとか」(うつけの竜灯と言えば、知る人ぞ知る穀潰しだ。ただ誌洲の心証はそれに留まることはなく、ある神主が嘗てこの軍の少将だった時代、人となりについて聞き及んだ覚えがあった。直接の面識はないものの、あの火津彌が嬉々として憎からずといった物言いをしていたのだから、単なる盆暗ではない筈だ。伝え聞く分には氷原とは真逆の性質であるように思えるが、だからこそ結び付く縁というのもあるのかもしれない。というか大概、俺も似たようなものだろう。それらしい娯楽にでも付き合わされれば、氷原にとっての賦活剤になるかもしれない。下手に依存してしまうと困るが。無責任にも長年の担当患者へ新たな視点を与えてくれることを期待しながら、もう一人の女のことに思いを馳せた。とてもいい人で、友達になりたい。氷原が女についてそう言うのは珍しい気がする、そう考えた時にふと下卑た閃きが誌洲の脳裏を過った。)   (3/11 00:36:58)
蕨/誌洲 > 「……氷原、そんなにあのみかんが気に入ったんだったら、篠に旨いみかんの見分け方でも訊いてみりゃどうよ。いや、折角だしな、一緒に青果市にでも出張ってみるか?したら……なれんじゃねーか、友達に」(それどころじゃなく、もっと面白い関係になれるかもしれない。そう言い添えることはせずに、誌洲は口の端だけを吊り上げる。氷原が恋愛に興味がないらしいというのは推して知るべしといった所だが、誌洲としてはかねがね歯痒く思っていた。色恋を生き甲斐とする人間は愚かにも少なくない。女が彼の支えになる可能性を諦められずにいたからか、もっと単純な好奇の悪戯心によるものか。ともかく誌洲はすっかり憂さ晴らしへと舵を切ってしまった様子で、頬杖をつきながら返答を待った。)   (3/11 00:37:03)


ゑゐりあん/氷原 > うん、すっごい気に入ってさ。竜灯さんにも分けたんだ(あのみかんは本当においしかったと今でも思う。正直竜灯に分けた分も食べたかったくらいだ。しかし、誌洲の言う火遊びにはまだ興味がなく)うん…まぁ気が向いたらね(と彼の言葉を苦笑で流す。すると誌洲はみかんが気に入ったのであれば篠と一緒に買いに行けばいいと言い出した。誌洲の気持ちを汲み取るのであれば、それは篠と氷原の二人で行け、ということになるのだが朴念仁かつ察しの悪い氷原は)あぁ、いいね。じゃぁ今度行こうよ。“三人で”(と言った。どうも氷原は誌洲の「一緒に」という言葉を、氷原と篠、そして誌洲を含めた言い方だと理解したようである。だが、例え誌洲に「二人で行け」と言われても氷原は誌洲の意図は読み取れなかっただろう。氷原は自分が恋愛をするとは到底考えていない。むしろそんな資格を持っていないとすら思う男である。故に、ただ二人で行っただけでも氷原はただ「友人を作ることができる上に、おいしいみかんの選び方を知れる」と喜ぶだけだ。誌洲の氷原と篠をくっつける思惑を考えれば、ある意味三人で行くほうがいいのかもしれなかった)   (3/12 16:57:31)


蕨/誌洲 > (善意からの勧めを苦く一笑に付す氷原は相変わらずだ。勿体ないというか、つまらないというか。目を眇めながら溜息の一つでも吐こうとした所で、待望していた筈の回答に誌洲は愕然とした。)「…………は?」(気怠げな頬杖から一転、信じられないといった面持ちで氷原の白い容貌を見詰めたのも束の間、すぐに虚しい心地が去来する。鈍感にも程がある。幾度となくこの手の応酬を繰り返してきたが、こいつ本当に、俺がどんな思いで……。眼鏡をずり上げ目頭を押さえている内に、ふつふつと激情が湧き上がってくるのを感じた。再び硝子細工を通した視界で眼前の男を睨め付けると、昔馴染みであるが故か、それとも単なる彼の性質か、歯に衣着せぬ暴言が消耗している筈の喉からひり出される。)「──この馬鹿、お前の脳髄は蚯蚓で出来てんのか?二人でっつったろうが、このボケナス!」   (3/12 23:18:57)
蕨/誌洲 > (三人でって何だ?保護者同伴か?お前は幾つなんだ?──続けようと思えば幾らでも溢れ出てくる叱責の数々、これでも押し止めた方ではある。到底魔術師とは、まして巫子だとは考えられないような口汚い罵倒は、氷原にとっては慣れたものかもしれない。なお誌洲は一言も二人でなどと限定した物言いをしていないにも拘らず、普通に考えれば分かるだろうとの拡大解釈をとんと棚に上げ切っていた。呆れ返ったように天井を見上げれば、またうそ寒い心気が胸中を満たす。どうしたものか……。次の瞬間、疲労と虚脱感とで明らかに回転を鈍くした思考回路が、ふと自身さえ予期しない言動を導き出していた。『……なぁ、氷原』。決して穏やかとは言えない声色の呼び掛けと共に、誌洲は死んだ魚のように濁り切った瞳をその人へと向ける。)   (3/12 23:19:02)
蕨/誌洲 > 「……俺実は、ずっとお前のことが好きだったんだ。だけどほら、俺とお前は男同士だし、患者に手を出す趣味もねえ……だから、お前には早く身を落ち着けてほしいんだよ。いやせめて、女の一人とでも連れ添ってる姿を見たいんだ……」(抑揚の全てを捨て去ったような平坦な語調──つまりは棒読みで、淡々と誌洲はそう告げた。最後に付け加えた『後生だから、俺を諦めさせてくれないか』の言葉だけは、少しだけ熱が籠もっていたかもしれない。疲弊を自覚せずにはいられない己の振る舞い、これで駄目ならいよいよ観念も出来ようというものだ。無論、氷原が強く動揺するようであれば、ただ嘘だとだけ伝えて撤回すれば、勘繰りもせずにそれを素直に受け入れるのが彼だろうという読みも含めての愚挙ではある。お節介というよりもただ、どうしてもこの楽しみの種を、芽も出さない内に踏み躙られたくなかった。この激務を乗り越える上で、こんな細やかな遊びに興じることすら許されないなんて、余りにも非情というものじゃないだろうか。)   (3/12 23:19:09)


ゑゐりあん/氷原 > え?(唐突に出た誌洲の「は?」に反応する氷原。そして即座に理解した。「何かやったな」と。そして氷原の予想通り誌洲の罵倒が浴びせられる。こんな性格の氷原なので誌洲の期限を損ねることも多々あり、この程度では不安定な情緒を崩すことも無い。まぁ、それでも凹むものは凹むのだが。しかし、言われっぱなしの氷原でもない。これが中途半端に仲のいい相手なら反論も出来ないが、相手は勝手知ったる昔馴染み。反論くらいならできる)いや先生一言も2人で…って言ってないじゃん…(反論終わり。短文で的確に相手の揚げ足を取る嫌な反論である)   (3/13 13:19:32)
ゑゐりあん/氷原 > な…なに…?(突然、誌洲が呼び掛けてきて少し驚きつつも返事をする。すると、投げかけられたのは棒読みでの愛の告白。つまりは嘘。しかしまぁ、恋愛感情を今まで抱いたことの無い氷原である。そもそも恋愛というもの自体をよく理解していない彼にとって、別に異性だろうと同性だろうと好きになればいいのでは?と考えていた。さらに言うと、氷原は人としての「好き」と恋愛における「好き」をいまいち区別できておらず、誌洲の好きの意味も汲み取りかねていた。そして少し悩んだ結果出た言葉は)   (3/13 13:19:42)
ゑゐりあん/氷原 > …えっと…気持ちは嬉しいな…?俺も先生好きだし。…でも先生今日なんか変だよ?やっぱり疲れてるんじゃない?休んだ方がいいと思うよ…?(そうじゃない&お前が言うな、である。本人も困惑気味なのは、彼の唐突な告白に脳が追いついていないからだろう。彼は決して鈍感ではない。他者の好意をしっかりと理解することはできる。ただ、今までの人生においてあまりにも恋愛をしてこなかった(避けてきた)が故に好意の受け止め方が絶望的に下手くそなのである。結局今回も、誌洲を友人として「好き」であるという感情を恋愛的に「好き」であるという感情と混ぜてしまったが為にこの返答をしたのだ(ただ、前述した通り氷原にとって恋愛は異性でも同性でも関係ないという価値観を持つため、氷原が友情と恋愛の区別が出来ていても同じ返答になっていたかもしれない))   (3/13 13:20:29)


蕨/誌洲 > (されて当然の反論も、狼狽の呟きもどこ吹く風、誌洲は一方的に生温い視線を氷原に注ぎ続けていた。危惧したような動揺は見て取れない時点で、第一関門は突破したと捉えていいだろうが、果たして。逡巡している様子の氷原を眺め始めてしばらく、ようやく開かれた唇から齎された言葉は、やはりと言うべきか核心に欠けていた。こちらの意図を把握し切れていないのが如実に表れた当惑と茫乎に塗れた受け答えに、誌洲は今度こそ嘆息する。およそ性愛の類を遠ざけ続けて今に至るらしい氷原の宣う“好き”という言の葉と、自身が述べた余りにも白々しい愛の告白のそれとが、どれだけ定義を異にしているのか判断を下しかねた。それでも幼子でさえ懐疑の念を抱くような単調な読み上げに対し、猜疑心の一つも呼び起こさなかったのは得たり賢しといった所だろう。まあ、俺が詐欺師ならいい鴨だな。さて困惑という形ではあれど、この凍てつく氷塊を些か揺らめかせたのだから、少しは何かしらに響いたという希望的観測を抱いてもいいだろうか。)   (3/13 21:51:12)
蕨/誌洲 > (尤もそう期待を寄せる誌洲には最早、一肌脱いで打った猿芝居が徒花に終わるなどという過酷な現実を受け止める心積もりは更々なかった。そうした思惑と共に終始泥濘んだ瞳を差し向けていた主治医に対し、氷原の宥めるような気遣いが降りかかる。今し方繋ぎ合わされたばかりの何かの紐の緒が再び擦り切れそうになるのを辛うじて堪えさせたのは、垣間見えた一筋の光明に他ならなかった。)「……俺は諦めさせてくれって言ったんだぞ、氷原。人の純情を弄ぶとはいい度胸だな。ああそうだ疲れてる、俺は疲れてるとも。だからこそこう……打ち明けられずにいた、長年の燻る気持ちをだな……つい、曝け出しちまったんだよ。……馬鹿なことしたよな」(目線を泳がせ苦し紛れの弁明を繕いながら、誌洲はどうすれば“篠との逢引”という着地点に落とし込めるかを画策する。疲労をこの上なく加速させているのは誰だ。俺の僅かな気力まで搾り取って、ぬけぬけと薬貰って帰れると思うなよ。ここまで来たら絶対に言質を取ってやる、何を擲ってでも──既に誌洲の中の天邪鬼は、すっかり意固地になってしまっていた。)   (3/13 21:51:17)
蕨/誌洲 > (かと言って、これ以上心を砕くのも癪な気がする。元より、そんな余裕も猶予も残されてはいない。誌洲はしばし考え込みながら俯き、喉の奥で微かな呻きを鳴らしたかと思えば、次には面を跳ね上げた。その双眸に苛立ちを宿しながら、氷原の鼻先へ指を突き付ける。)「──好きとか言われて断んねえなら、抱くか抱かれるか、その二択って相場は決まってんだよ!お前にできるか!?意味が分かんねぇとかその口が裂けても言うんじゃねーぞ、性交渉だ!!」(極論、暴論、自暴自棄を体現した誌洲の口舌からは、余りにも直接的な単語が飛び出していた。そのまま握り込んでいた指を開き、掌を向けた上で自らの顔を背ける。文句を差し挟むなよと態度で示しながら、先程よりは幾分か落ち着いた声色で話を続けた。)「……いいから、めかし込んで篠と会ってこい。ふ・た・りで、な。……分かったか?」   (3/13 21:51:22)


ゑゐりあん/氷原 > え?…え?(誌洲の態度に困惑気味の氷原。これでも尊華の人間であるため回りくどい言い方には慣れているが、それでも誌洲の唐突な告白により脳みそがショートしたのか理解が追い付いていないようだ)も…もっとわかりやすい言葉で言ってほしいかなぁ…って(諦めさせてくれ。冷静な彼であればその意味も容易く理解できたろうが、現状の氷原では「よくわからないけどとりあえず先生、俺に何かさせようとするのをあきらめて」と心の中で強く思うことしかできなかった。何を諦めさせてほしいのか、せめてその具体的な意味を言ってほしいと思い、わかりやすい言葉で、と言ったのであるがどうやらその思いは届いたようだ)…せ…性交渉?先生と?   (3/15 13:05:37)
ゑゐりあん/氷原 > (具体的に言った。願いはかなったよ。よかったね、氷原。ここで氷原は全てを理解した。あぁ、つまり先生は俺と性交渉をしたいのだ。まぁそれはあまりにも見当違いなのだが。これは先に愛の告白(嘘)をしてしまった誌洲にも非はあるだろう。一割くらい。残りの九割はもちろん氷原だ)し…篠さんと…?二人でって…(前述したように男だろうと女だろうと、特に意識していない氷原だ。それに昔馴染みである誌洲が相手であるし、それに性交渉自体ももちろん経験がないため具体的なものを思い浮かばなかったというのもあって、「別に先生となら構わない」というのが結論だった。しかし、それを言う前に誌洲は有無を言わさない、と言わんばかりの態度で篠と二人で出かけるように言ってきた。どうしてそこで篠に戻るのか?氷原には理解のしようがなかったが、とりあえず)わ…わかりました…(わかることにした)   (3/15 13:05:45)


蕨/誌洲 > (悍ましい解釈の片鱗が耳朶に触れた気がしたが、誌洲は頑として錯聴だと思い込むことにした。『ずっとお前のことが好きだったんだ』、『好きと言われて断んねえなら、抱くか抱かれるか』──確かに己の唇が象った二種の述懐をごくシンプルな三段論法に則って噛み砕けば、その推察が最早誤解と称することはできない単なる解であることは誌洲も承知の所だ。それでも肉を切らせて骨を断つと言うには余りにも夥しい出血を伴った渇望の結実を引き出してしまえば、得も言われぬ達成感と期待とが胸中を満たした。遅れてやってくるであろう悔悟の念など、こと今に限ってはどうでもいい。──勝った。)「……よし。言ったな?」(全く手こずらせやがって、などというつまらない悪態は飲み込んでやろう。制止の為に差し伸べていた腕をゆっくり下ろすと、降伏同然の受諾を告げた氷原少尉へと向き直る。改めて対峙すれば、より一層窶れを酷くした気配のある相貌に不敵な笑みを湛えながら、独りでに頷いて見せた。)   (3/15 23:14:38)
蕨/誌洲 > (元よりこの昼行灯だ、こうなることは当然の帰結だった。……癇癪でも起こされない限りは。誌洲は遂に重ね置かれていた手提げ袋の一枚を捲り取ると、机上に整列させられたまま捨て置かれていた薬袋に指を掛ける。)「ま、そう難儀なことでもねぇよ。お前は少尉らしい……っつか氷室家の坊っちゃんらしい身仕舞してだな、“仲良くなりたい”って伝えてくりゃいいんだ。たっぷり一日かけてな」(一つずつ漢方を収めていく度にかさかさと紙の擦れ合う音がささめく。『色恋とか結婚とかは、もうどうでもよかですよ。あっちがだめならこっち、なんて思ゆ程図々しくもなかですし』──不意に曇天が蘇った。寒菊が供えられた石灯籠を前に、従容と語った篠のあの心境は尤もだろう。転移性恋愛に倦んで長い自分も、至った結論は同様だから共感もできる。それでもこのお節介によって謀られた逢引が、双方にとって悪い話じゃないと盲信せずにはいられない。)   (3/15 23:14:42)
蕨/誌洲 > (自分が女にのめり込む質だと思ったことはないが、それでも人並みに一通りの経験をしていれば、恋愛がどんなにか中毒性の高い劇物であるかの一端は理解することができる。要するに、本能だ。生殖本能をロマンスのオブラートで包んだそれは、さながら糖衣錠に近い。初心な二人を依存症へ釣り込みたい訳じゃないが、愚かであっても虚ろであるよりは幾分か塩梅がいいだろう。次善の策なら上等だ。誌洲は縒れた白手袋で最後の一袋を詰め終えると、思い出したかのように襲ってくる喉の痛みを咳払いで誤魔化した。仕事道具は大切に扱うべきだ。早速些細な後悔に苛まれながらも、楽しみの種──もとい、担当患者の氷原へと手提げ袋を差し出す。)「篠には俺からも話を通しとく。……いいか、上手くやってこいよ」(──散々詭弁を弄した所で、結局は愚者である俺が空虚に反抗する為の手段に過ぎないのかもしれない。この狂水騒ぎを乗り越えた暁には、愉快な土産話が芽吹いていることを願ってやまなかった。)〆【処方箋】   (3/15 23:14:48)