竜灯&糸依

唄は心に甘し

シロー/竜灯 > (そこかしこで人々の叫び声が聞こえるなど、まさしく阿鼻叫喚の地獄絵図が広がっていた帝都。そしてそれは帝國軍でも例外では無かった。3年前の命の水を彷彿とさせる光景に竜灯は糸依を探してまず第一に兵舎へと駆けていた。)「ああすまん!すまんの!おうどいちょくれ!!どいとうせ、ッ邪魔じゃ!!」(羽織をひらひらと閃かせて、暴れる軍人を取り押さえたり、わらわらとごった返す軍服の群れを掻っ切る様に声を放つと、上官だろうが雑兵だろうがお構い無しに掻き分けて糸依の部屋へと向かっていた。慌ただしい足音が糸依の部屋に近づいてきて、がちゃがちゃと焦る様に扉のドアノブを回す音がしたかと思えば、草鞋を脱ぎ捨てて部屋へと息を切らしながらやってきた。⋯⋯思い返されるのは3年前のいつか。あの時は自分が我を忘れていたらしく、糸依や火津彌さんに迷惑を掛けたと後から知らされた。命を落とした人も多く居たらしく、自分が良かったからと言って落ち着いていられる状況ではなかった。散らかり気味の部屋は今に始まった事ではないが、散乱した部屋の様子は明らかに普段とは違う気がした。   (2/23 23:52:28)
シロー/竜灯 > 散らかった本の海に横たわる糸依に気づくが早いか、横にしゃがみこんで頭を抱き抱えて持ち上げた。)「糸依さんッ!目ぇ開けちょくれ!⋯⋯俺ぜ、竜灯ぜよ糸依さん⋯!」(大きな声で糸依に呼びかけてから、己の字を口にして体を何度か揺すった。首の裏に掌を当てれば、しっかりと体は温かいし、胸は上下している事に僅かな安堵を見せると、目覚めた時に焦りに塗れた表情を見せて心配させないよう、上体を胸元に押し付けるように抱き締めた。)「糸依さん、竜灯ぜ。俺がずうっと傍に居たるからのう。」(未だ糸依が寝ているだけという可能性も無くはないが、この騒ぎもあって、そうは思えないのが当たり前であった。焦燥に駆られた目をして「助けて!」など意味のわからない事を口走っていた人々の姿を思い出しながら、安心させるかのように背中をとんとんと叩いて、目覚めた時に安心させられるように、言霊に願いを掛けた。)「大丈夫、大丈夫じゃあ。俺が何とかしたるきにの、悪い夢でも見よったならもう大丈夫ぜよ⋯⋯。俺が守ったるからな、悪い奴は俺がみんなぶっ殺しちゃる。大丈夫ぜ、大丈夫だ、大丈夫、俺がついちょるよ」   (2/23 23:52:31)


清瀬/糸依 > (民衆や兵士や、騒ぎ声と混乱に包まれた外から隔絶した部屋は酷く寂しく、孤独であった。籠った力の全てが無くなって、重量に従うままに部屋の雑貨に埋もれていた。恐怖のままにしは水を根絶し続けて、今は涙すら出ない程に体が枯れている。静かに水底に息を潜めるように眠っていたからか夢は見なくて、足掻いても苦しい喉元を静めるようにして意識を落としていた。静寂に微かにノックをする足音は段々と痺れを切らして、蹴破るようにその音量を増す。騒々しい音に意識を引き戻されてみれば、愛しい匂いと逞しい身体に包まれていた。)「………おたあ、さ…あ、れ。りんど、う………?」(濁ってぼんやりとした視界と頭は、此所が何処であるかを忘れさせる。思わず脱力してしまいそうな安堵をもたらす彼を、馴染んだ母親に重ねてしまった。項に手を伸ばすと襟足の髪が甲を擽って、そこで初めて竜灯に抱擁されていることに気が付いた。かけられる言葉の一つ一つは子守唄の如く私をあやす。塞がった視界に自ら踞っては羽織を両手で握り締め、救いの手の差し伸べられるままに従った。)   (2/24 13:08:08)
清瀬/糸依 > 「竜灯、竜灯……ごめん。ごめ…っ、水が…あ、あぁ…怖く、て」(『傍に居る』『大丈夫』。何度もかけられた言葉は安心と共に、何を畏れていたかを思い出させる。終始纏まりのない妄言を吐露する中で、御世辞にも自虐と呼ぶには稚拙な弱音がその大半を占めていた。肩のあたりに己の額を押し付けると、手に込める力を強めてより激しく、頼りなく身体を預ける。悴む寒さは不平等に襲いかかり、凍える身で寄り添うようになった二人の片方に無理やり乗るように、押し付けがましく寄り掛かる。盲目の背後には何者かがその双眸で私を責めたてている。そう疑わずにはいられなくて、いつまでも見えない脅威に脅されていた。)   (2/24 13:08:21)
清瀬/糸依 > 「嫌、いや…っ!う゛、ぅえ……あ゛……ひ、ぐ…っ……」(伏せていた顔が僅かに湿りを感じて、誰も見てはいないところで目の色を焦燥に変えた。弾けるように竜灯から離れようと肩を手で押し返し、そのまま距離をとることが叶えば不安定な床に全身を引き摺るように後退するだろう。貴方から発生したとばかり思い込んで退こうとして、伝うものが涙であることに絶望する。頭ではいくらこの“異様”に気付いていたところで、“水”という怪物が脳の中を這いずり廻るのだ。毒針の恣意的な病に侵された瞳からは、患者にとっての“毒”を垂れ流し続ける。拭うことも叶わずに流動体の狂気に怯え、吐き出すものもなく昇った悪寒は胃をぎりぎりと締め付ける。艱苦に歪んだ眼で貴方を見つめると、掠れた声で祈った。)「助け、て…お願い……」   (2/24 13:08:32)


シロー/竜灯 > 「待っちょれ、俺が守っちゃるきにの」(目覚めた糸依が酷く狼狽している様子は一目見て分かった。『水が怖い』と口にした糸依の頭をとんとん、と一定のリズムで優しく叩きながら、糸依が母と間違えた事もあったのか、一つ息を吸うと、リズムに合わせ低い声で口ずさんだ。)「────思い~、叶わ~にゃ~願掛けなあ~さ~れ。はやる守山~の~、神の峰~───」(故郷守山の祭りで良く聞いた唄を口ずさみながら、とん、とんと頭を叩く手を止めずに続けていく。守山の竜神様に捧げる唄でもある事から、唄の歌詞通り願掛けのつもりでもあった。何度も嘔吐きながら譫のように助けて、と繰り返すのを掻き消すように耳元で唄い、続け様に祈りを捧げた。)   (2/24 19:44:03)
シロー/竜灯 > 「霊峰守山に坐し坐して 天と地に御働きを現し給竜王は 一切を産み一切を育て 萬物を御支配あらせ給う竜神なれば 萬物のものの病災を立所に祓い清め給へと 恐しこみ恐しこみも白す」(守山の麓の社で何度も奏上した祝詞を繰り返し祈り。糸依の体を抱き寄せながら目を閉じてまた口を開いた。)「竜王神なるを尊み敬いて 主の子が願い奉る。士郎の名の元に 御力を現し一切の罪穢を払い給え⋯⋯」(瞳を閉じて、奇跡を願う。ゆっくりと目を開けても奇跡の程は読めないものの、心から祈る気持ちがあれば、神様は糸依を救ってくれるだろうと信じて、とん、と背中を叩いて糸依に反応を促した。)「⋯⋯糸依さん、もう大丈夫じゃ。王国兵も居らん、水の妖怪も居らん、俺とおまんだけぜよ。のう、糸依。糸依さん。」(やき、目を開けてこっちを見てくれ、と糸依の肩を掴むと体をそっと離して、瞳を覗き込んだ。   (2/24 19:44:04)


清瀬/糸依 > 「う、う゛……水、が。毒が………」(目の裏から旋毛にかけて畝った道を描いたような軌道で、激痛の牙に喰われた頭は朦朧とする。喚き乱れる声の多い拒絶の狂乱の中他の患い人と同じ様に声を張り上げる様を見せなかったのは、蓋をしていた感情が静かなものであったからか。煮えたぎるような激昂ではなく、失望を煮詰めたような温い負。怯えた悲鳴すらも無意味と捉えた中の世界は無色であった。その中に唯一、暗くくらく色をもったものは毒。辺りを漂う奇っ怪な何かはぐにゃりと歪んだ手で、禍々しく私に触れようとする。それは濡れそぼった全ての場所に隠れていて、肌を刺し私を段々と蝕んでいくのだ。そんな狂ったまやかしを見ては、食道が虚を追い出そうと、潰れた直後の虫の殻を集めたような不快さをかきたてる。無彩の視界が定まらなくなるとただの下手くそな墨絵のようで、まともに身動きもできずなされるがままに頭を優しく撫でられていた。)   (2/25 00:36:23)
清瀬/糸依 > (抑揚と緩急の独特な、馴染みのない中で親しみの故郷を彷彿とさせる唄が一つ、奏でられた。カサカサと擦れたり誰かの嗤う幻聴に支配された耳に、疚しさを祓う唄は確かに届いていく。まだ髪の素直であった幼子の時の記憶を指の腹でちょいと撫でる感覚はあったが、その正体まで突き止めることはできなかった。次第にそれは神への祈祷に変わっていき、頭を往復するだけだったものは身体を引き寄せる。急な感触に服の上から貴方に爪を食い込ませようと指に溢れんばかりの力を込めたが、我にかえってはそれを必死に咎めようと自分の腕を強く痛め付けるのを繰り返していた。救済を乞う痴れ言を何度も細く繰り返して、何処にも重心が留まらずに頼りなく身体を揺らして収まっている。とん、と叩かれた背中と『大丈夫』の言葉。──瞳を開けると、竜灯の後ろで淡い猩々の小竜が仄かな火の粉を散らして舞っていた。)   (2/25 00:36:35)
清瀬/糸依 > 「…………竜灯」(焦点がどこにも定まらなくて、それが幻覚であったのか貴方の魔術であったのかもとうとうわからなかった。ただ、それ以降もう正体のはっきりしない奇形も居なくなって、半端に乾いて痒くなった頬を擦ることができるようになって。字を呼ばれたことに同じ様に呼んで返すと、困ったような、けれど屈託の薄い笑顔でいつものように言ってみせた。)「おなごの部屋に、ぬけぬけと。猶なめげなる人よ」(恐怖はなくなっても、身体のあげる悲鳴はまだ消えない。喉は痛く、手先は痺れて、とても五体満足とは言えなかったが、気持ちだけは晴れやかになった。羽織の襟を引き寄せて「疲れた」という名目で体を近づけると、からっぽの腹の中に謝罪をぐっと飲み込ませた。)「……ありがとう」   (2/25 00:36:44)


シロー/竜灯 > (視線を交わして暫く。『竜灯』と先程よりも明瞭な声で己の字を呼ばれると、おう、と短く頷いた。その後続いた声と薄い笑顔に漸く普段通りだと言うことが分かって。人差し指で軽く鼻の下を人擦りしてニヒルに笑うのだった。)「うん、糸依さんは俺の女やき。ええよ、世話が焼けるのは昔からじゃきに、ほんで好きになったんじゃ。」(普段通りの皮肉と、相反する謝罪の声に、糸依らしさを感じ、愛しいとばかりに彼女を腕で迎え入れて抱き締めた。『俺もこんなんじゃったんかの。』とつい聞きたくなったのを抑えて、疲れているであろう糸依の体を数十秒の間抱きとめて支えてから。ふと何かに気付いて天井を見上げながら、ぼそりと声を上げた。)   (2/25 19:02:04)
シロー/竜灯 > 「⋯⋯⋯⋯のう、糸依さん」(糸依を胸元に押し込めつつ、空いた利き腕で壁から垂れ下がる赤い布を手に取ると、糸依の項に長い赤布を垂れさせて呟いた。)「ようやったの。阿岸も、今日も、よう頑張った。」(頬に手を当てて、ゆっくりと顔を自分の胸元から離させると、糸依を見下ろして眉を上げながら口角の端も僅かに上げて微笑んだ。)「俺の奥さんになって、こんまま軍人辞めるか?ほんでもええ、そうなったら糸依さんには元気な子、産んでもらおうかの。⋯⋯それは、戦争に行く糸依さんへのお守りじゃ。どうなってもずっとおまんを愛しちょる。」(この鉢巻を渡した時の事を思い出した。『お守りぜよ。いつかこん鉢巻を返してくれたら、そん時は糸依さんを一緒に嫁に貰おうかの。』阿岸に征く糸依への魔除け、御守りとして渡したものだから、これを返すならば軍人を辞める、と思って受け取ろう。糸依になら伝わるかな、とそう言い含めて糸依を見た。   (2/25 19:02:06)


清瀬/糸依 > (物好きな言葉に呆れる傍ら頼もしかった。すっぽりと収まるように身を埋めて、まだ不完全な身を労って瞳を薄ら閉ざす。首の後ろにかかったくすぐったい感触に一瞬身を捩ったものの、草臥れた体を起こすまでには至らなかった。魔術師の癖に肯定の言葉しか脳にないのかと思う程、この男は是しか口にしないというか。根は同じ草で惹かれあう同士、私と同じ様に、理想を、信念を置く場所を高くあろうとしているようなものを、他人なんて興味もなくわからないなりに感じていた。)   (2/26 23:17:09)
清瀬/糸依 > 「……お互い様。落陽殿…大尉の、神の寵児と臥平へ。……その前には、要らぬ勲章まで賜って」(頬を支える腕を一瞥して、蟇のようにしゃがれた口内を咳払いで調えた。縁起でもないが私達は軍人、いつ手を繋げなくなるかもわからないし、口をきけなくなるのは明日かもしれない。こういった野暮なことを飲み込んでも、鑑の中に無茶が見えるような気がした。添えられた腕の服を捲って程なくして見える、銅樹のように体を這い侵した痕は、雷電にやられた証。嘶く雷鳴は三年前を彷彿とさせる。狂い水の時もまた、彼の故郷は嵐に荒れていた。神に愛された鈴の音が響けば、王国だって恐れ戦く。そんな彼女がついていたからよかったけれど、竜灯一人であったらどうたったろうか。掛けられた鉢巻は今になると、阿岸へゆく私への手向けであったようにも思えた。私が引き留めているのが勿体無いぐらいにいい男なのに……それ故だろうか、神は酷しい結果を突きつけてくる。)   (2/26 23:17:12)
清瀬/糸依 > (折角騎士団長を仕留めてもその後に控えた野郎に昇格の機を蹴飛ばされてしまうのだ。不憫といえばその通りで、天命といえばそれまで。そういえばその騎士団長は暫く帝国の捕虜になっていたのを思い出す。すると捲られるのはあの鬼の千騎長と対面した記憶、ここで赤糸を返せば、桜をまた見られる季節を迎えられるだろう。……二人で? 一人で?)「…もう少しだけ、有り難く頂戴してる。…………そうだ竜灯、好きな色一つ言って」(鉢巻を手に絡めると拳を握って、何時もより更に囁き声の返事と共に軍人の顔を向けた。無責任には築けない幸せの在り方の設計図をどうするべきか、悩んでいた。決断するまでにすん、と鼻を何度か鳴らして暫く返事を渋る応酬はあったが、「今迫るなんて風情がない」とでも言いたげな顔をしてみる。こういうのぐらいは自分から切り出してみたいではないか。──暗がりの部屋ではあったが特徴の一つなくなってしまった貴方の姿は何だか味気なくて、映える赤のない姿は気迫が薄れて寂しい。先程の慰撫の子守唄を耳の中にしまうと童心が擽られた。   (2/26 23:17:36)
清瀬/糸依 > 突拍子のない問いをかけながら手をかけたのはすぐ隣にある机の三段目。小物が奏でる騒々しい音をさせながら塗炭の小箱を取り出すと、一つの鍵を取り出した。合鍵を装飾のように紐でそのまま繋いだそれを、二段目にある鍵穴へと差し込んで捻る。妙に整頓されたその棚の中を体を屈ませて覗き込むと、編んだ紐を一つ取り出した。右の腕を軟かに掴むと手首に紐をあてて、今度は阿岸の唄を胡椴の唄を口遊む。──一つ結べば天道様、二つ丑三つ星渡り。三つ福の来るよって、はたを鳴らして祈りやしょ。生娘愛でては贈りゃんせ、えにし様のみたまもの────。貴方の選んだ色を腕に結び終われば、彩度の増した姿を見て満足げに目を細めた。)「王国ではミサンガとか言うんだっけ、こういうの。……大願成就の御守り。これが自然に切れたときに願いが叶うっていう風習があるの。……縁切りが由来だから、魔除けの御守りみたいなものかな」   (2/26 23:17:53)


シロー/竜灯 > (頬に当てた腕、袖を捲られると顕になるのは軍人の勲章であった。百騎長と名乗った奴の事は未だ忌わしいと思うが、それとこの傷は関係の無いもので。一つしかない肌におぞましい痕が残ったが、こうして軍人を続けている限り、そしてもしいつか前線を退くことになった後だって、自分にとってはかけがえの無い勲章として、証として刻まれ続けるのだ。伝説になりたい、と常々口にしている竜灯の夢と重ねられる部分もあり、総じて「箔」や「自信」となるものの内の一つで竜灯にとって命と同等に大切なものであった。同じ糸依もこの傷を見て顔を顰めることも、「可哀想」と言及して情けを口にすることもなかったから、それを分かっているのだと思って竜灯は僅かに口元を緩ませた。そこまで考えてから、理由はどうあれやはり糸依は根っからの「軍人」なのだと再度思い立つに至る。自分の質問が野暮だったとまでは思わないが、後の糸依の選択を耳にしても顔色を激しく変化させること無く、ひとつ頷くだけに留まった。自分の足で立って進む糸依の姿に惹かれる部分も勿論あったし、糸依の答えを尊重して漸く口を開いた。)   (2/28 00:04:23)
シロー/竜灯 > 「好きな色か。赤ぜ。魔除けの赤、勝利の赤、鳥居の色と同じ縁起のええ色じゃき」(それこそ野暮な質問だ、と何となく思いながら微笑んで。小箱を取りだしたと思えば中から合鍵を取り出し。本が散乱しがちな部屋にあって妙に整頓された棚、ただの収納には多い手順に裏打ちされた『大切なものなのだろう』という予想を抱きつつ、赤紐を取り出すのを視線で追いかけた。自分の手首に巻き付けられつつある様子をじっと見つめて眺め、結び終えた後に手首を持ち上げて様々な角度で見つめ、腹側、外側と手首を回転させて瞳を細めた。)「こりゃあええ。こがな贈り物を受け取ってしもうたら、ますますおまんをおいてはゆけん。まこと、ええものじゃ。⋯⋯ええのお。正直なあ、切りとうないと思うてしまう」   (2/28 00:04:26)
シロー/竜灯 > (竜灯らしい生気に溢れた瞳と言うよりは、どこか傷一つつけたくない大切なものを眺めるような、細めた瞳で何度も手首をひっくり返して眺め。穏やかな声色で繰り返す。二十と幾年の人生の中、自分にここまでの物をくれた人はいなかった。価値の問題ではなく、言うなればその人の持ちうるどれだけを贈ってくれたか。これまでの糸依を思い返して、竜灯は自分の考えている事を認めた。魔術師である自分達には言葉に魔力を宿らせる事など容易く、有り触れた愛の言葉は自分だって何度も吐いた。竜灯は、もう糸依の意志を尊重する事も出来ずに一つ、一世一代の大きな我儘を、それこそ大願を口にする。)   (2/28 00:04:36)
シロー/竜灯 > 「けんども、これが切れることがあったなら、俺は一つ大願を叶えられるんだなあ。俺が生きちょる間でええから、どうしても欲しいもんがあるんじゃ。⋯⋯なあ糸依、おまんだけは俺だけのものにしたい」(ミサンガに片手を乗せて、無意識に優しく撫でつけてから、そっと両肩を掴んで見つめた。)「もう糸依さんだけは居なくなって欲しくないちや、俺が生きちょる間だけでええ、これが切れてしもうた時には、俺も潮時なんじゃろ。そうなったら俺はおまんしか要らん。⋯⋯よう、覚えちょってくれ」   (2/28 00:04:47)


清瀬/糸依 > 「そんな立派なものじゃないよ……別にどうしようが構わないけど」(くるくる、手首を返したり光に透かしたりしながら骨董品でも眺めるような竜灯の仕草に妙に恥ずかしくなる。嬉しさ半分、見栄が半分といった具合に肩を竦めて視線を横流す。口元を隠すような軌道で、涙に赤く擦った頬を掻いた。大層なもののように扱われているのはもどかしかったが、己の贈った赤色が手首に咲いているのが誇らしかった。家を出る前に自分で編んだそれは数少ない親孝行。だからこそ余計に、そんな柔らかい瞳で見つめられてしまうと変に浮わついてしまいそうになる。提げた鉢巻きを胸の前で蝶々の形に結んだりほどいたりしながら、伸びた腕の本体を遡るようにして貴方と目を合わせた。)   (3/1 22:27:46)
清瀬/糸依 > (大願の叶う紐、と言って結んだそれに貴方がどんな願いをしたかは、聞いてはならない吟醸の宝物のような気がしていた。切りたくないと言っていたのだから、いくら魔術師であれ容易く口にすることはできないものだと頭のどこかで落ち着けていたのだろう。実際は何とも絵に描いたような筋書き。彼が愛において冗談をわざわざ選ぶようなひねくれた人でないことは私がよく知っている。だからこそ、何というか。)「強欲」(ミサンガをつけた手首に指を添えて、そう笑ってやった。ある人を我が物にしたいだなんてどこまでも傲慢、きっと私が思うような意味合いでないことはなんとなくわかるが、そう言われて素直に淑やかな顔をしてやるつもりもなかった。収まってなんてやらない、それぐらいならばいっそ、彼をいつまでも追いかけさせてやるぐらいに素敵になってみせるのだ。)   (3/1 22:27:48)
清瀬/糸依 > 「……喉、乾いたな」(これ以上こんな陳腐な場所にいてもどうにもならないだろう。未だ全快とはいかない体を立ち上がらせると手を差し出して、「行こうか」という言葉の代わりにした。朱に交われば赤くなる、と人はよく言う。それではないけれど、貴方の身代りを今すぐ額に巻かなかったのは擬似的な独立。何もかも在れば良、とはならないもの。特別というものが必要だろう。そのいつか、情熱の赤い糸は小指でなく額に巻き付け、魔除けの命綱の決して切れることのないように。たった一人が水を拒み、また欲するまでの短い物語。ふたりぼっちで交わしたことには鍵をして、残り香の部屋を後にした。)〆【唄は心に甘し】   (3/1 22:27:57)