鬼若
鬼の詩「転」大和守/鬼若 > (──歩く、歩く。歩いて、ただ歩いて、ある華の元へ向かっていた。気付いた。気付いてしまったのだ。そもそも、こんな状況が続いてはいけない。イモータルである筈の【彼女】と会話を交わし、果てには易々と見逃す。【彼女】のその中身には、魂には、生前の記憶という確かな人格が存在していない。それはつまり、【彼女】は彼女ではないのだから。そうであるならば、【彼女】を見逃すなど許されはしない行いの筈だった。例え、見目が彼女と全く同じでも。例え、笑顔が彼女と同じでも。──例え、その歌声が同じだっとしても。……だから、これ以上は【彼女】とは居られない。会話など出来ない。【彼女】は、忌むべき対象として。討伐するべきモノとして。決別を、しなければならない。──何時までも姉離れが出来ない様では、彼女に笑われてしまうだろうから。) (2/20 13:09:07)
大和守/鬼若 > (──『うた』に従って。何処からか聞こえてくる『うた』を追い掛けて。辺りは暗く、月も登り足元が見えない中。明かりも持たず、けれどもその『うた』だけを頼りにして。何時しか鬼若は、陰鬱な森の中へと迷い込んでいたのだった。けれども、不安はなかった。それに従い、追い掛ければ【彼女】は確実にそこに居るのだから。それだけは揺るぎない事実なのだから──。)「……紫苑姉さん」(『うた』の主はすぐそこに居た。その主を──【彼女】を視界に入れて。鬼若は、彼女の名をぽつりと呟いた。『あら……あら? ふふっ。初めも申した通り、私の名は鬼華なのですが……』『……まぁ良いです。それより、もしかして貴方は自殺願望でもあるのですか? 何故、弄ばれると知っている筈なのに来たのです?』。【彼女】も特に驚いた様子もなく、ただ浮かんで当然の疑問が飛び出る。確かに【彼女】は宣戦布告をしていた。故にこそ、こうして出会えば確実に戦闘が行われるというのは鬼若とて知っていただろう。) (2/20 13:09:30)
大和守/鬼若 > (──それでも。来ないといけない理由が、あったのだ。)「……俺はお前を……貴様を、討伐しなければいけないからだ。故にこそ、こうして貴様の元へ来たのだから」(つい何時もの──彼女と接していた様な口調で話し掛けそうになってしまった。けれど、ゆるゆると首を横に振り。軍人としての面を、【彼女】に向けた。扇子を取り出し、それを閉じたままびしりと【彼女】に突き付け。)「──余は尊華帝國軍大佐、鬼若。全ては、白き華の為に。貴殿を、滅する」(重く、低く。はっきりと、口にした。同時、閉じていた扇子を慣れた手付きで勢い良く開けば彼女を滅する為の詠唱を始めた。)「響く音 吹雪けよ悲鳴 空高く 汝が運命 手中に在り 揺られ散り逝く 儚き歌 哀れ憐れに 鳴響せよ」(風が一ヶ所に集まる。可視出来そうな程に渦巻いたそれに向けて扇子で掬い上げるかの様な仕草を行う。瞬間、扇子は風を帯び。扇子を振るえば勢い良く、弾丸の様に風の刃が放たれた。それは一直線に、【彼女】に襲いかかる。) (2/20 13:09:46)
大和守/鬼若 > 「…………避けないのか」(ただ、笑みを浮かべて【彼女】はそこに立っていた。その身には、刃によって刻まれた跡が確かにある。服が血に濡れているのも見えている。痛みは確実にあるだろうに、【彼女】は笑みを浮かべていた。……【彼女】は本当に、紫苑と、彼女と同じ見目をしている。まだ割り切れていないのか──鬼若は苦しそうに眉を潜めていたものの。『……この早さに対応出来る程、私は強くありませんので。……ふふっ。貴方は優秀な魔術師なのですね』。その言葉に鬼若は大きく目を見開いた。扇子を壊してしまいそうな程強く握り締める。口を閉ざし、【彼女】を見つめた。その言葉は、何よりも彼女から掛けられたかったモノで。彼女が生きていたなら、絶対に。一時的にではあれ魔術師として生きていた彼女なら言ってくれた、筈だから。『貴方は本当に良い──』────彼女であって彼女ではない【彼女】がその言葉を紡ぐのが、許せなくて。) (2/20 13:10:00)
大和守/鬼若 > 「────うるさい黙れッッ!!」(扇子を思いきり放り出し、思わず【彼女】の首を掴み力を込めていた。【彼女】の首を、絞めていた。──今すぐに消えてほしい。【彼女】は、彼女じゃない癖に。彼女の顔で、彼女の見目をして、彼女の声で、鬼若の望んでいた言葉を紡ぐ紛い物。それは彼女に対する冒涜でしかなくて。それが、許せなくて。激情のままに、鬼若は叫ぶ。)「お、お前はッ、……紫苑じゃない、癖に……ッッ!! あ、彼奴の顔で、彼奴の声で……、そんな事、言うんじゃねぇよ!!」(……軍人だった彼の皮は、激情に飲まれて直ぐに消え去った。ぎりぎり、ぎりぎり。そのまま細い首を折ってしまいそうな程の力を込めて。けれど、それを受ける【彼女】の様子は酷く落ち着いていた。抵抗もせず、ただ──何処か悲しそうに鬼若を見つめていた。その瞳が鬼若の良心を余計に傷付け、力が微かに緩む。) (2/20 13:10:14)
大和守/鬼若 > 「……なん、なんで、……お前は、そんな目で、俺を見るんだよ……。お前は、殺されそうに、なってるのに、何で……憎いとか、そんなんじゃなくて、……」(普通ならば、少しであれど抵抗の色は見えるだろう。殺そうとする相手を憎いと思うような、または生を渇望するようなそんな目が。普通ならばそれが当然なのに。例外である【彼女】を見て。思わず、鬼若は【彼女】の首から手を離してしまった。)「……そんな悲しそうな目、してるんだよ」(続けて紡いだその言葉が──切欠となった。【彼女】は目を丸く見開き、まるで頭痛を抑える様に苦し気な表情を浮かべて。けれど、次の瞬間。本当なのかどうか、不安そうに伺う様に。『──筑紫、……?』。──彼女は鬼若の真名を、静かに呼んだ。──もう、この詩も終わりを迎えなければいけない。どんな歌にも、息継ぎが必要な様に。────終わりの為の、詩が、歌が。始まる。)【鬼の詩「転」】〆 (2/20 13:10:25)