鬼若

鬼の詩「起」

大和守/鬼若 > (【彼女】と出会ったのは、本当に偶然だったのだろうか。あまりにも奇異過ぎるものは、最早必然とも呼べるのでは無いだろうか。神の手繰り寄せた、はたまた神の悪戯による運命。と現実逃避を重ねるのは彼女に悪いだろうか。きっと以前の彼女なら、『この私に会えたのにそれを嫌だなんて言わせないからな』と憤怒した事だろう。それも無かった事が、余計に虚しさを増幅させるのだが。嗚呼、こんな前置きも此迄にして聞いて貰おうか。──これは、ある【華】の歌である。)   (2/18 18:47:23)
大和守/鬼若 > (篠と共に弔い、雷鏡に話し救われた事でかなり気分が落ち着いた頃。溜めてしまっていた執務を何とかと言った様子で終らせ、息抜きの為に外へ足を踏み入れた。以前行っていた様な視察は、最早行っても意味がない。今はこんな戦争の時代になってしまったのだから。すっかり陽も落ちてしまい、夜が登る。ざりざりと土を踏み、歩き。そう言えば暫く眺める暇など無かったなと足を止め、登る月をぼうっと見つめていた、そんな時。──『うた』が、きこえた。)「────……えっ」(何処か聞き覚えのある声。それに興味を惹かれて参った其処は路地。この時点で気付いても良かったのかもしれない。あんなに堂々と響く歌声が、広場やらでもなくこんなにも暗い路地から聞こえたのは。獲物を誘う為のモノだったと。そこに居た人──否、人ならざる者を見て。鬼若は驚愕の色を顔に浮かべた。周りに転がる剣も、紅海も、何もかもがどうでも良い。『あら──御機嫌よう』。ただひたすらに、そう言った【彼女】へ瞳は向けられていた。)   (2/18 18:47:47)
大和守/鬼若 > (──服装も、瞳も、髪も、声も──その、猫を被った時の口調も。全てが。)「…………しお、ん……?」(──紫苑。かつて己を拾い、真名を付けてくれたその人と、全く同じだったから。……嗚呼否、全てが同じとは言い難いかもしれない。【彼女】の頭部には黒く立派な角が二つ。更に体からは剣やらが生え、異形と呼ぶに相応しい存在だったのだから。だが、そうだとしても──。)「あッ、ちが、紫苑姉さ──、ッ」(【姉さん】と付け忘れた事に気付き、思わず普段の様に条件反射の如く滑り落ちてしまった言の葉──けれど。『紫苑、姉さん……? あらあら、ふふっ。一体誰の事を言っておられるのでしょう。──私の名は鬼華。どうぞ──宜しくお願い致します』。……嗚呼、そうか。そりゃあ、そうだ。今の彼女はイモータルなのだ。己の事など、覚えている筈もない。自棄に冷静な思考。これは何かが起こるという予感か、凶兆か。)   (2/18 18:48:01)
大和守/鬼若 > (『ねぇ、貴方』。【彼女】の呼び掛けに、一瞬動きが止まった。その声は直接心に染み入る様で──『聞き給え』──強制的に、【彼女】に惹き付けられた。その間が、命取りとなる。『落つる鬼の華』虚空から、鬼灯と呼ばれる赤い花が数輪、舞い落ちた。『狂い咲き』その花は一気に数を増した。小山が出来るのではと思う程の花が舞い。──『鎖となりて』──『身を捕らう声』。)「────が、ッ……ぁ、ぐぅ、……ッ、……!?」(──次の瞬間、【彼女】の言葉通りに変化した花──鎖と変化し、急所は外しているものの一斉に鬼若の体に、肉を破って突き刺さる。あまりの痛みに悲鳴をあげる事すら出来ずただ呻き声が溢れた。何より、鎖が地に強く根を張ってしまっているせいで動く事すら出来なかったのだから。脳内に流れ込むかの様に、何処までも自然に紡がれた言の葉。それは何処か魔術に通じる様なモノがあり、全身を這う痛みから意識を逸らす様に、鬼若は【彼女】を観察するかのようにじっと見つめた。けれども霞む視界ではそれも上手く見えやしない。)   (2/18 18:48:19)
大和守/鬼若 > (『──痛いですか? きっと、とっても痛いですよね? ふふっ、可哀想。とっても哀れで惨め』『……ねぇ、貴方。そのまま殺してあげても良いんですけど……』。追い打ちを掛けるかの様な言葉の数々に、鬼若は瞳を細めた。その中に慈悲は一切無く、ただ弄んでいるという様な印象を強く受けた。例え、見目は同じでも。その中に宿っているモノは、どうしようもない程に黒く歪んだ、ただの化物。生前と似ても似つかないその様子に、鬼若は微かに悲哀を含んだ瞳を向けて『……どうしてそんな目をするんですか』。……微かに怒気を孕んだその声色に、思わず視線を逸らしてしまった。)「……何、だよ」(逸らしても尚此方を見る【彼女】の視線に耐えかね、鬼若は出来るだけ体を動かさないようにしながらそう問うてしまった。『いえ、いえいえ。別に何でもありません。ただ、面白い目をしているなと。……殺そうと思っていましたが……気が変わりました。ふふっ』。)   (2/18 18:48:35)
大和守/鬼若 > 「…………い、ッぐ、ぅ……あ、う"、~~~ッッ!!」(彼女の言葉に怪訝そうに眉を潜めた直後。縛り付けていた鎖が、まるで元からそこには存在していなかったかのように、瞬きの間に消え失せた。それは鬼若の体を無理矢理支えていた物も消えたという事で、鬼若は地にどさりと仰向けに倒れた。勢い良く血が吹き出し、倒れた事による刺激で再び痛みに意識を向ける事となる。声にならない悲鳴をあげた。『ふふ、ふふふっ。……面白いですね。だから、ねぇ、貴方。今は見逃してあげます。貴方のあの目がとっても不思議で、気になってしまったから。……嗚呼でも、その前にくたばっちゃいそうですね、貴方。ふふっ』。その言葉を残して、【彼女】は何処かへ消えていってしまった。一人、残されたのは血溜まりに沈む鬼若だけ。起き上がる事すら出来ず、ゆっくりと意識を失ったのだった。)   (2/18 18:48:47)
大和守/鬼若 > (──これが、【彼女】と鬼若が初めて出会った時の話。出会い、再び別れる為の話。未練を断つ為の、決意を新たにする為の。その、始まりである。)【鬼の詩「起」】〆   (2/18 18:50:17)