アンダンテ

濁したグラス

清瀬/アンダンテ > 「……こいつぁ、困った御客さんだ」(鉛の雲が月から都を隠す不穏な夜、この店には木漏れ月が差す。微酔いに沈める店ではないというのに、カウンターに突っ伏す客人は顔も感情も、心までもを曝してぐしゃぐしゃにして、酒なんて浅はかなものに恋をしている。暫くすると啜り泣く音が聞こえなくなり、その代わりに魘されているのか、しし唐の外れでも引いたようなしかめっ面で夢へとお出掛けだ。残念だったなぁ、此所に居るのが些細な不幸を幸福に変える魔法の笑顔を贈ってやれる、団欒とした家族の一員じゃあなくて。)「しかし面白いもんだ、女一人に誑かされた副団長がこの様さ。帝国はなァにをしてるんだか」(手付かずのミス・チョコムースはほったらかしにされた挙げ句他の子の事ばかり話して!なんてきゃいきゃい騒ぎながら拗ねているというのに、後片付けは用意した此方に一任か。副団長サマ、字はセオドアだったか。相手の名を出さないのは偉いものだが、どうやらどうしようもない不運の持ち主だったようだ。   (2/13 14:47:29)
清瀬/アンダンテ > 鏡というにはお粗末な銀世界を写す未使用のフォークは、シャワーも浴びずに軽く拭かれて棚の中。お駄賃はちゃんと払いなさいよとがめつい彼女は、明日にはそこの薄暗い箱に入ったあくたの仲間入りだ。)「ま、お國が何をしようが俺には関係ねぇけどな」(言の葉にあるまじきそれを聞き届ける人は居ない。此所にあるのは虚しさと、日のあたる世と良い子の前には出せない、汚れのようにこの空間に染み着いた朧げな、けれど鮮明な誰かの陰口の数々だ。ああ、あとそれから忘れてはいけない、出来の悪いスイーツ嬢達。客に倒されたグラスをちゃあんと立たせてやると果実酒を注いだ。透き通る赤は暗く、高貴の紫を彷彿とさせる。)   (2/13 14:47:52)
清瀬/アンダンテ > 「お客さん、ほら。こんな処で寝潰れるおつもりですか?これでも飲んだらぼちぼち帰って下さい」(フードをだらしなく垂らした肩を揺すると相手を起こし、テーブルの上のグラスを手の方へと滑らせた。自分よりも華奢な手の先は固くなった皮の鑢を被っていて、触れると柔らかい茨が刺さる。眠り王子が眼を擦るのを横目に、レコードをそっと取り外した。微睡みの灯りの中に、愉快と紺碧を翳らせて、静寂の中に一息の、偽った安息を、御休みなさい。)【濁したグラス】   (2/13 14:48:04)