篠
ゴーストライターマリア/篠 > 「……はぁー……どげんしたもんか……。」(帝国軍本部の廊下でうろうろと右往左往しながら、篠はため息をついた。胸の前で組んだ両手の中には小綺麗な便箋がある。中身はこうだ。『白梅様 突然の文に驚かせてしまっていたら申し訳ございません。これは軍人としてではなく、一人の人間としてのごく個人的なお便りです。なにぶんお忙しいでしょうから、お手すきの時にでもお読みいただければと思います。 さて単刀直入に申し上げます。私は貴女をずっとお慕い申し上げておりました。貴女が元帥であった頃から、いえもしかすればそれよりもずっと以前から、その凛とした背中を追い続けて来ました。貴女への想いを文字に起こそうとすればする程に、己の魔術師としての力の無さを痛感します。言いたいことはたった一言、私は、貴女を愛しています。』――自分の丸文字の癖を覆い隠そうと、何度も何度も書き直してようやく出来た一枚だった。最後はへとへとになり、随分短くなってしまった。そして恋文は、二枚目に渡る。 (1/25 21:09:21)
マリア/篠 > 『愛しています。愛しています。愛しています。どこか少女のように天真爛漫な貴女様を、誰にも別け隔てなく白い花を綻ばせるように目をかけて下さる貴女を、私は愛しています。常に尊華の未来を思い、たった一人でも大地に根をはり続ける高潔なお姿を、私は愛しています。時に見せる愁いを帯びた横顔も、私だけは知っているつもりです。ご迷惑である事は理解していますが、それでも貴女を愛し、支えたいと思う人間がここに居るという事を、伝えずにはいられません。どうか無礼をお許しください。貴女が萎れそうになった時、私は自らの血を差し出してでも水を分け与えたいと思います。もしも貴女が軍人であることに疲れた時は、一人の女性として抱きしめてやりたいと思い上がった事すら考えてしまいます。貴女に仇なすものが居れば、刺し違える事は私の本望です。どうかこの想いを、単なる一軍人の敬愛の念だと思わないでください。忠誠心は神明に誓って本物ですが、私は浅ましくも、貴女を独り占めする夢すら見るのです。ああ、白梅様!身が引きちぎれそうな恋慕であります!』 (1/25 21:09:36)
マリア/篠 > 書いても書いても、『そうか、妾も皆を愛しておる』とかなんとか言うんじゃないか。その想いから、どんどん恋文は暑苦しいものになっていった。一夜明け読み返した時には苦笑が漏れた。――なんじゃコレ。しかし、篠にはもうこの方法……大佐のふりをして恋文を代筆すること……しか思いつかなかった。大将を呼び出して『大佐の気持ちに気づいてあげてください!』と言うべきかと何度も思ったが、そんな事出来るはずもない。よもやこの文が捏造で、書いた人物が自分であると見抜かれても構わない。そうすればむしろ、自然に大佐の話にもってゆけるだろう。ご気分を損ねこそすれど、このくらいで首を跳ねられるような人でもないはずだ。最後の最後に『鬼若』と署名しそうになって、いくらなんでも大佐に殺されたくはないな、と思いとどまり、『鬼』の一文字を墨でぬりつぶしてようやくかきあげたのだった。) (1/25 21:09:46)
マリア/篠 > 「……神様っ!」(たのむ、これでどうにかなってくれ。そう祈りを捧げながら、篠は大将執務室の扉の下から、すっと手紙を差し込んだのだった。) (1/25 21:09:52)