ヘスティア&黄橡

火星接近

マリア/ヘスティア > (戦場に設えられた治療所で目を覚ました時、ヘスティアは何が起こっているのか理解できなかった。時間間隔が不明瞭で、目の前に広がる闇が夜のせいなのか、それとも自分があの世にいってしまったからなのかということすらもわからなかった。ゆっくりと瞼を開閉するも、太陽の光は瞳に届かず、僅かに身を捩れば腸が千切れるかのような激痛が走る。それでも僅かに声をあげるのみだったのは、決して彼女が気丈だったからということでもなく、ひとえに治療魔術の精度が高かった事を示していた。)「……」(次第に聴覚が研ぎ澄まされ、かちゃかちゃと器具の鳴る音を耳にする。続いて尊華訛りの声が頭上を飛び交うのを。そこがまだ敵陣の治療所である事などは、到底思い至らなかったので、絞り出すような声で司祭を呼んだ。)「………ッ…あ……スザンは……どう……なった」「……撤退、しろと、言ったでしょう……なぜ、……治療を……。」(徐々に記憶がふつふつと戻り、先の地獄を想起した。自分は負け、そして死に損なったのだということを悟る。)   (1/19 02:29:15)


行町/キツルバミ > 「……おう、起きなすったかお嬢さん。優秀な部下を持ったな、きさんの言いつけを皆守っとったよ。___直にきさんの同胞が容態次第で身柄を引き取りに来る。応急処置はしたが、適切な治療を続けなければ後遺症が残る可能性があるそうじゃ。嗚呼、それと……手の届く範囲できさんの祖国の味に最も近い茶を取り寄せさせたが口に合わんくても堪忍じゃぞ。」(貴方が意識を取り戻したのを見やればうつらうつらと居眠りをしそうになっていた元帥はそっと貴方の身体を抱き起しては近くの机に淹れていた茶をカップに注ぎ、そっと火傷などしない様に貴方の口元へと運ぶ。その後、使いに連絡を任せた彼は治療所で貴方を匿う事にしたそうだ。すぐにでも貴方の部下が身柄を引き取りたいと云えば呆気なく貴方は解放されるだろう。身柄引き取りにも尊華の不躾な輩が介入しないとも限らない以上、準備が整うまで貴方には我慢を強いなければならない。その間、心細くない様にと治療や面会目的ならば敵陣である貴方の部下が治療所に入る事を認めるという内容の文書が上手く貴方の部下に届いた事を願うばかりだ。)   (1/19 02:42:18)


マリア/ヘスティア > (尊華の強い訛りを孕んだ言葉を耳にし、身体は凍りついた。声のほうに目を向けるもやはり視界は真っ暗で、どんなに目を凝らそうとも輪郭が浮かび上がる事はなかった。朦朧とする意識の中で騎士の撤退、それに続く閑談を聞くが、もはやそれどころではない激情がすぐにヘスティアを支配するだろう。身体を起こされ、カップを口にあてがわれた事が、トリガーとなった。)「………う……あ゛ァッ……触るなァアッ……!!」(自由にならない手であなたの腕を払い除けると、カップは中の茶をそこら中に撒き散らしながら床へ叩き落され、破片を飛び散らせて砕ける。)「……貴様は”キツルバミ”か、間違いなく私と刃を交えたあの老将か!何故私はここにいるのです、何故あなたが私を抱くのですか、何故情けをかけたのですか!」   (1/19 03:01:24)
マリア/ヘスティア > (話しながら、不思議といままで経験したことのないような熱さが腹の底をちりちりと焦がした。部下に殴られ高説を垂れ流された時も、会戦で一兵卒に敗北した時も、煮え切らない部下たちに接し続け四面楚歌となった時も『腸が煮えくり返る』と思っていたが、それが間違いだった事を知った。本当に情動を持て余した時、怒りの熱は脳ではなく臓物を、生理学的に支配するのだ。)「……騎士の誇りを愚弄した貴様を許しはしない、刺し違えてでも今ここで殺してやる!……私とは聖騎士団そのもの、聖騎士団の誇りを踏みにじったのなら、あなたが死ぬか、私が死ぬかの二つに一つです。」(そうして、ヘスティアは詠唱を始める。周りの兵が無理やり口に何かを突っ込みでもしない限り、じきに魔術は完成するだろう。)   (1/19 03:01:32)


行町/キツルバミ > 「______、焔の次は茶か。よっぽどお嬢さんは儂の肌が見たいと見えるのう。」(貴方の言葉を最後まで聞き届ければ小さくため息を吐いてはカカっと乾いた笑いを漏らして、茶の滲んでしまった袴に視線をやって、やれやれと言わんばかりに、立ち上がり、容赦なく貴方の顔面をその大きな拳で鷲掴みにし、そのまま後頭部を柔らかな枕に叩きつけ、身動きを封じるだろう。)「せからしい小娘じゃ。……儂がきさんの誇りとやらをどうこうする為に同胞を使うと思っとるなら愚弄しとるんはきさんの方じゃ阿呆が。儂ぁのう、きさんの生き様にゃ敬意を抱いとる、じゃけんどなあ、きさんの誇りとやらには微塵も興味は無いんじゃ。」   (1/19 03:19:01)
行町/キツルバミ > 「仲良し子良しをしたいんじゃありゃせんが力で捻じ伏せるんならきさんや儂じゃのうても出来るでの。儂の指標は完全なる統治じゃ、儂ぁ天下を取る、ならばせめて儂ぁ杯を交わした相手を後悔させられんのじゃ。こやつになら命を預けられる、そう思って貰える漢にならにゃあ儂ぁ天下を取ったとてなんの意味も無いんじゃ。それでも気に入らなきゃ好きにせえ、儂ぁ2度は止めんぞ。」(彼はそこまで貴方に聞かせればそっと手を離す。一度中断された呪文をもう一度唱え直すのも良いだろう。貴方がそうしようものなら、否、そうしようとも、彼はそれを甘受するつもりだ。それで気が収まるのならばもう一度、あの極大火力の魔術を受けよう。しかし、今回も貴方の放つ魔術を受けるのは自分自身のみだ。貴方の治療を優先させたせいでまだ先の戦闘の傷は癒えていない。命中さえすればこの老兵は簡単に倒れ伏すだろう。)   (1/19 03:19:11)


マリア/ヘスティア > 「我が仰ぎ見し、慈しみ深き火神―――……ッ!」(詠唱はあなたの手によって阻害され、短く息を止めたヘスティアの頭は、針を包んだ真綿の如き枕にいとも簡単に沈んだ。)「……っぶ、……はな……して!」(突然動いたせいでまた、傷口がぱっくりと開く。ヘスティアの腹部に巻かれた包帯にじわりと血が滲んだ。なんとか腕を振り払うことはできても、再び起き上がる事は能わなかった。)「……はぁッ……はあ゛あぁッ……!」(『二度は止めない』と言われ、ならばと湧き上がる殺意を堰き止めたのは、凄味はありながらもどこか呑気なあなたの口ぶりだった。怒りは未だ失われる事がなかったが、そのどこかゆっくりとしたテンポに巻き込まれざるを得ない状況の中で次第に、別の視点が見えてくる程度の冷静さが介入する。『ここで奴を殺しても、領土が変わるわけではない。』というのが彼女の結論だった。   (1/19 03:49:29)
マリア/ヘスティア > 悔しくて涙が止まらないのは、敗北のせいではない。かつて竜灯という一兵卒に叩きのめされた時は、潔く負けを認める事が出来た。まだ自分には仲間がいると信じていられたから。自分の仇を誰かがとると勘違いしていられたから。――あなたには知るよしもないことであるが、このヨズアとの共同戦線を張るまでに、ヘスティアは部下とひとかたならぬ衝突をしてここまで来たのだ。たった一人でも生き様を見せつけて、それで死んでも悔いはないと思っていた。だのにこうして生き恥を晒して、現在は恐らくは捕虜の身。この悔しさを言い表す言葉を持つ事すらも、今の彼女には許されていなかった。)「……解りました。命を永らえさせてくださったあなたと帝國に感謝します。」   (1/19 03:49:37)
マリア/ヘスティア > (心にもない言葉を紡ぎ、欺瞞は震えて声に出た。腹の中では、――殺してやる――殺してやる――戦場で、殺してやる。――次は、戦場で、殺してやる――。黒くどろどろと逆巻くような感情に支配されながら、それを遂げる為に、感情を殺すことを選択するのだった。)「……では、何が目的ですか。……”仲良しこよしをしたいわけではない”と言うからには、お考えがおありなのでしょう。……前置きは結構です、単刀直入に。」(ぼろぼろと涙の流れる瞳は、やはりまだ、光を宿さぬままだった。)   (1/19 03:49:42)


行町/キツルバミ > 「___きさんにも同胞が居るのじゃろう。儂ぁ尊華の民を守りたかっただけじゃ、きさんを殺して民が平和を謳歌出来ようものならそうしたじゃろうな。…じゃけんど、そうじゃなかろう。きさんはこの老いぼれひとり殺した所で祖国が平和に成るとは思っとらんじゃろうて、___きさんが儂に向けていたあの眼、ありゃあ、ただ殺しが好きなだけの気狂いの目では無かった筈じゃ、ありゃあ多くを背負ったモンの眼じゃ。それだけできさんを生かす理由にはなろうもん。……そうじゃな、それでも納得できんと言うのなら。」(彼は大人しくなった貴方を見下ろしながら、再三唱えた彼なりの真髄をもう一度唱える。助けたのではなく、あくまで自分は自分の仕事をしているだけであり、必要のない殺生をしにこの地位に就いたのではないと。けれど、それでも貴方が納得できないというのなら、彼はもうひとつ貴方を納得させるべく、貴方を助けた理由を思い付いていた。)   (1/19 04:08:22)
行町/キツルバミ > 「儂ぁなあ、血の気の多い女子も強い女子も堪らなく好みでのう。惚れた女に手を差し伸べるのはそんなに可笑しいかや?」(カラカラと乾いた笑いを交えながら彼はそんな言葉を吐くだろう。もちろん、彼は既に枯れ果てた老いぼれ、色恋に現を抜かせるほど寿命が有り余っているわけではない。愛だ恋だは所詮それ以外やる事の無い暇な輩の娯楽に過ぎないのだから、これで貴方が騙されるとは思わないが、せめて呆れて詮索を辞めてくれればそれでよかった。)   (1/19 04:08:24)


マリア/ヘスティア > 「……そうですか。」(あちらもこちらも平和平和と、耳にたこができる。反吐が出そうだった。あなたの論調はヘスティアにしてみれば押し付けがましい勝者の妄言。それがどこにも屈折せず、素直に心へと届くのは到底難しいものだった。三年以上前の開戦以来、帝國の領土は大陸に存在する三国のうちでも最多であり、それこそ戦争のなかった時代の均衡などとうに破られている。勝者らしく驕り高ぶるのならばまだしも、余裕綽々に平和などと宣ってみせるあたり、何も本質を解っていないと気に食わなかった。騎士団長を殺される事と、情けをかけられ誇りを踏みにじられた事。王国からすれば、どちらを天秤にかけるかというだけの話だ。―――この老耄に考えなど無い。そう結論付ける。)「……はあ」(続いてかけられた素っ頓狂な言葉に、あなたの狙い通り呆れたような息が漏れる。しかしすぐに取り繕って、ヘスティアはあなたの言葉に乗った。)「……まあ。」「……な、何を仰るんですか……。御冗談でしょう、惨めな姿を見て情が湧きましたか。」   (1/19 04:34:34)
マリア/ヘスティア > (さあ、気分は大女優。目的のためには手段を選ばないのが、ヘスティアという女だ。――彼女が彼女として産まれた本懐を、遂げさせてもらおう。)「……王国には、そんな風に私の生き様を見てくれようとする人は一人も居なかった。」(頭をよぎる、アレイスやセオドアの顔。ごめんね、と心の中で呟き)「……騎士団が撤退したという話を聞いた時……っふ……わたしっ……、本当は、胸が張り裂けそうだったっ……!」「キツルバミさん。」(いまだ見えぬ視界の中、手を彷徨わせてあなたの手を取ると、甲に涙に濡れた顔を押し付け、うな垂れる。)   (1/19 04:34:43)
マリア/ヘスティア > 「……もう帰るところなどありません。捕虜のままで構いせんから、帝國に置いてください。……迎えがくるまでの間でも、構いません。」「貴方がどんな国を作るのか見たい。見届けさせて下さい。……個人的に私怨のある部下も居ますわ、苦しいけれど帝國の交戦に加勢する事も検討します。どうか―――」(ふっと顔を上げ、涙で潤んだ赤い瞳を向ける。その目には、あなたなぞこれっぽっちも写っていなかったが。)「抱いて下さい」   (1/19 04:34:50)


行町/キツルバミ > 「カカ、良い良い。治療中にきさんの身体は飽きる程味わって置いたでのう。兎角、きさんをこの戦火の中ノコノコ還す訳には行かん。同胞が連絡役を買って出てくれたんで、もう2,3日もしない内に迎えが来るじゃろう。_____儂ぁきさんと抱き合うよかまた剣を交えたいんじゃ、大人しく養生して仲間の元へ帰れ、敵情視察に行っただけだと言い張ればきさんの地位も危うからんじゃろて。」(けたけたと笑いながら彼は衛生兵に血の滲んだ包帯を取り換えさせるだろう。知っているとも、ヘスティア公が魅力的な女性であるという事も。もちろんこの老いぼれにも貴方は可憐で気高く美しい花にも見えよう。だが、前述の通り、彼は色恋に現を抜かせるほど寿命は残っちゃいない。種族は違えど可愛らしい童をただ純粋に育て続ける健気な爺やをなんだと思っているんだか。彼は貴方の顔面を鷲掴みにした時とは打って変わって、またいつも通りの穏やかで楽天的な耄碌爺さんに戻ってしまう。それから、地面に転がったカップを拾い上げ、治療所を後にする。互いに手負いじゃなければ誘いに乗っていたかもしれない、全く惜しい事をした。)   (1/19 04:51:16)


マリア/ヘスティア > (軽くあしらわれることもまた想定内ではあった。ヘスティアの演技を見抜いているのかどうかまではともかくとして、仮にも元帥の地位に座しているあなたが、ヘスティアの隠したナイフで腹上死を遂げる可能性を見てはいないとは思えなかったのもまた事実。)「……そう、ですよね……。いきなり敵である私にこんな事を言われても。ごめんなさい、つい熱くなってしまって……どうかしてる。戦いの熱気に呑まれたのかしら。」(そして、好々爺らしい雰囲気を取り戻したあなたに、努めてしおらしく言葉を畳み掛けた。)「……でも帰れなんておっしゃらないで。スパイとして雇ってくださっても構いません。私を交渉の材料に、あなたの言う和平を手にする道だってあるかもしれないでしょう?……信じられないのなら、どうか最期に、これだけ聞いて。私の覚悟の証……」   (1/19 05:18:24)
マリア/ヘスティア > (身を乗り出し、声を落として、ヘスティアは魔術的に、強力な意味を持つものを口にした。)「……マルティーナ、マルティーナ・ファブリ。それが私の真名です。私の天命を、尊華に捧げます。……どうか、その傷ついた腕の代わりとして使って下さい。」(マルティーナ。――戦争を意味する女性名であり、また、火星に捧げられたという意味を持つ。ヘスティア、いや―――もとい、マルティーナは。もうあなたを逃しはしない。)【火星接近】   (1/19 05:18:30)