糸依&竜灯

運命の赤い布

清瀬/糸依 > (あっちも、こっちも。雅の紫、沈着の黒、淑やかな軍服の男女は皆、正月やんやと賑やかに騒ぎ立てる。新年の暗黙行事ともなったそれのキーアイテムはフォーチュンクッキー。見渡せば、花を手渡す人、着なれぬ衣装に身を包む人。此処は第二の故郷でありながら、私はいきなり全く知らない土地に放り出されたような不安を覚えているのだ。過敏になりすぎているのだろうか、皆と同じ様に浮かれて手にした神籤を投げ棄てたい衝動にかられる。)「…………。」(二つの兵舎の入り口の見えるちょっとした広場、その壁に寄りかかり、スカートの縁へ手を滑らせる。ポケットの中に四つ折になった紙切れが綴るのは“愛言葉”、神様は余程お節介らしい。何だか貴方に会いたいような、そうでないような。…こうでもしなきゃ、言えないし。苦い顔をして出迎える準備は出来ている。餌の用意は完璧、釣糸を垂らした私は、偶然を手繰り寄せる準備をしておこう。)   (1/18 22:25:03)


シロー/竜灯 > (⋯⋯お。羽織姿で兵舎から出た竜灯は、何やら神妙な面持ちで誰かを待っているような⋯⋯慣れ親しんだ姿に気づいて、一瞬足を止めると覗き込むようにジェスチャーをした。どうやら相手もすぐに気づいたようで、瞳がふいと逸らされる。肩を竦めて近づいていくと、腰に手を伸ばしながら笑った。)「待たせたの?」(約束をしていた訳では無いが、待っているのはきっと俺だったのだろう。その証拠に先程視線を逸らされたし、自信満々の様子で「ん?」と笑って。腰を抱いた。叩き落とされたら叩き落とされたでそれでもいい、と体を寄せて、戦争の話は無しにしようと言葉を続けるのだった。)「二人で過ごすかの?俺もおまんを誘おうとしとったき。⋯⋯⋯⋯お。」(周りを見渡して、そして足元の石畳の継ぎ目に出来た隙間。捨てられたのか紙くずが挟まっているのを目にして、そうだ。と瞳を細める。つい先日自分は買ってしまったが、糸依さんにも買わせよう。そうしよう。と嫌がること前提で呟いた。)「糸依さん、〝御籤〟買うて欲しいのう。フォーチュンクッキーぜ、嫌と言っても駄目じゃき。俺が買うてやるぜよ」   (1/18 22:48:04)


清瀬/糸依 > 「あ……」(翡翠の透けた威勢のいい髪、探していたその人は遠くからでも目立つこと。今日とて変わることなく赤く映える鉢巻の、淡い風に揺られるのをぼうっと見ていると、かちりと目が合った。“気付かれた”、わざとらしく目を逸らしても、心うちでは貴方を手招くばかり。)「……どうだか」(軽く包むように回された腕に、拒むでも引き寄せるでもなく片手を添える。石畳の導く終わりのない籤をなぞっていた視線を隣に持ち上げ、答えは否定のないのが決定打。冬に感じる布越しの人肌と、選んだ言の葉の時間。いつ切り出そうか、と肺のあたりを渦巻く嫌な苦しさを喉元まで絞り出していた。)「……っあ、籤」(早速と核に踏み入った貴方、期待通りというのは失礼か。どうやら少し前に颯爽と竜子は好評だったようで……私が公に会うことはなかったが、きっと貴方は吉の多い一年となるだろう。ポケットに突っ込んだままの手を抜くに抜けず、それでも何か言わないと。似非の行事とはいえ神からの信託であるというのが、中々に無視をさせてくれない一因であった。)   (1/18 23:21:42)
清瀬/糸依 > 「竜灯、その……。土産なればうち合わず、ほら」(それ行こう、と引っ張られる前にぐい、と貴方の羽織の袖を引き寄せる。腰に置かれた手に指を差し込んでほどくと、そこに一枚の紙を、御籤を握らせる。貴方がそれに目を通す間、澄んだ冬空に高く流れる叢雲に視線を逃がして、たまに伺うように隣へとそれを戻すのを繰り返していた。)   (1/18 23:21:48)


シロー/竜灯 > 「⋯糸依さん?⋯⋯ん?」(乗り気じゃないなら引っ張ってやるつもりで居たけれど。糸依の言葉の意を察して不思議そうに声を上げると、掌に差し込まれた紙切れの感触に手を戻すと、折りたたまれた紙を量の指先を使って開く。胸の前辺りで開いたそれを見下ろしてから、文章に走らせていた視線を上げて糸依に向き直った。)「予定を変えるちゃ。糸依さんと話してからどこ連れてっちゃるか決めようかの。」(まこと可愛いのう、口元をにい、と緩ませて、懐に片手を入れて片方の肩を壁にもたれ掛けさせると、糸依を見つめて笑った。)「なんぜ?糸依さん」   (1/18 23:35:33)


清瀬/糸依 > 「……竜灯、その」(ニヒルな笑みが此方を向いている。相手の去らぬ限り異性に呟く言葉、掴んでしまったその時から悩んで用意してきたそれを引き出す中、冬に似合わぬ焦りの象徴が頬を伝う。字の付け焼き刃では誤魔化しのきかない、明らかな空虚があった。躊躇うことなく、という文字ばかりがとぐろを巻いて頭の中を締め付けていた。憎まれ口ならば飽くことなく列ねることができるのに、己が嫌な人間であることを否応なしに再認させられる。つっかえた言葉の端切れが喉から漏れるだけであるのは、この場が人前だからという羞恥ではない。一瞬の誠実を恐れた私が私の首を締め、更に振りかかる恥じらいをわかっていながら逃げているだけであった。いざ、いざと神がすぐ後ろで揶揄うように私を急かす。)「──いつもっ」「いつも、路草を食ってばかりの私の手を引いて。呆れることもなく、嫌な顔だって見せずに待ってくれて」「竜灯は明るくて、たまに憎まれながらも皆に慕われていて」   (1/23 22:56:51)
清瀬/糸依 > 「ええ、と……違う、此のようには非ず……」(この男との馴れ初めから暫くは、腐れ縁の類いのようなものだったろうか。何度追い払っても私を遠巻きにするどころか、何度も向かってくる彼が密かに嬉しかったのだろう。ひねくれた私の気持ちは、持ち主である私自身からもそれを秘匿してしまった。巧妙に伏しておきながら、貴方にはこれ見よがしにその尾を見せつけるのだからたちが悪い。特段叫ぶわけでもないのに息は早く巻き、予習の成果は何一つ発露できていない。ちらりと此方が向いても貴方は口をつぐんだまま、何処かにでも連れていってから聞くつもりだったのだろうか。……それでは仕切り直すか? 見栄っ張りの私がそんなことを、ましてや彼にするなんてとんでもない。)「貴殿をいと思ふて、いや……」(簡単なことだとはわかっている。ただ私が易々と口にしてしまうと、爛れた蟲の羽の奏でる言葉へと落ちてしまうようなものなのだ。丁重に、時を選んで、私は忍ばなければならない。……御託は結構?ならば告げよう、神託の名の元に。)「愛してる、よ。……其とぞのみ告ぐる。え言ふなし、それ」   (1/23 22:56:53)


シロー/竜灯 > (何を言い出すかと思えばこん人は。今回ばかりは素直に思いを伝えるかなと思っていたのに。回りくどく道草食いな所はそういうところぜよ。⋯⋯と言いたい所だったが、どうもむず痒い。褒め殺しにあっている様な気がして、うなじ辺りの襟足を指先で掻いた。何度も言葉を詰まらせて。待ちきれない。黙って視線では見下ろしながらも、心ははやくはやくと逸っていた。たった一言「愛してる」と言えば良いだけだが、こと糸依という女はこういう時だけ、魔術師では無くなってしまうらしい。いじらしくて愛しい気持ちと板挟みになりながら、漸く聞けた一言に口角を吊り上げると、人目も憚らずに糸依を壁へと優しく押しやって、顎の下を指で支えて持ち上げながら口付けをした。)「俺も愛しちょるよ。糸依さんがこがなとこで言うきに、悪いぜよ。やけんど嬉しいよ」   (1/24 21:11:53)
シロー/竜灯 > (自分を目の前に改まるだけでこうなる糸依には、公衆の面前での接吻など羞恥以外の何物でもないだろう。悪びれた素振りの一つせず、糸依の腰に手を当てて歩くよう促すと、街の方へと連れ立って歩き始めるだろう。最初は前を向きながら独り言のように話し始めたが、僅かな間を開けて視線を向ける。)「火津彌さん達は元気にしとるかのう。最近顔も見ちょらんが、しっぽり仲良くやっとればええけんど。⋯⋯のう、俺らも一緒に住まんか?いつかは住むんじゃき、俺はおまんに会いたくて毎日出向く羽目になっちょる。」(糸依はきっと思っても中々言わないだろうから、と言い出した事であった。)「いつでも糸依さんを抱けるしの。一緒に居れるよ。嫌か?糸依さん」   (1/24 21:11:56)


清瀬/糸依 > (疎らな通行人と哀しげな景色、今年は一段と意地悪な冬が、慣れたものに塗り替えられる。若干予感していたと言えばそれは、これを迎え入れてしまった以上れっきとした敗北だ。だからせめて、今日は“態度”で否定してやらないといけない。そして貴方は、そんな所まで強引に引き込んでくれないといけない。僅かに貴方の体を押した両手と、きつくした目尻の真意も、つぐんだとしても汲み取らなければならない。……わざわざ言わずとも、この男は性がそうであるのだから杞憂か。私のこれもこいつのこれも、どうしても落ちぬ程に刷り込まれたものだからどうしようもないだろう。)「そう、いう所…きら……苦手」(満足げに微笑む貴方を、今だけではなくずっと前からよく見ている。慣れた応酬。相性が悪いというか、勝てないというか、嫌いならとっくに離れているから答えは明解。今日の神様が微笑む先に私は居ない、従うままに賑かな街並みの方へ足を進める。口元の苦味を羽織の襟で隠すと、懐かしい字を耳にした。)「しょ……あな、火津彌殿か。それに董殿も、如何し給ふか……」   (1/26 20:34:19)
清瀬/糸依 > (災いを目覚めさせるまいと禁める者が入れば、言霊よと号ぶ者が居る。よく知った二人が仲睦まじくする様子を、すぐに私達へとすり替えようとする声があった。)「──はは。貴殿は…竜灯は本当にいつも、気が早い」「早い……けど、まあ。そうだなぁ……」(その時までに成長できているだろうか。くそったれた…なんて言えたもんじゃない、皆から崇められた彼らに弄ばれた上擦った心でなく、ぎらついた志もなくしたまっさらな私が、未来に必要とされている。彼女を近々見つけに行かなくてはならない。それまでにまずは一つ、伴侶にでもなるに相応しい伝説を、私も描いてこないといけない。『やられてばかりじゃあ、私らしくない』。──言い訳としては、こんなところだろうか?絡めた腕を引き寄せると貴方を見上げて、幾らか幼く、悪戯に笑んだ。)「きっとすぐ、その時は私から言ってあげる。『貴方の紡ぐ伝説を、すぐ隣で見守らせて下さい』とでも、何とでも。口吸いも擁くことでも、望むまで」   (1/26 20:34:30)


シロー/竜灯 > (相も変わらず、歯切れの悪いこと。いじらしくて好きだけれど、どうやら今度はあべこべな態度では無いらしい。何となしに掛けた誘いに糸依が「早い」というのもまた予想通りで。敢えていつでもいいと付けなかったのは、糸依の気持ちの程を聞いてみたかっただけ。期待を隠そうともせず、口角を上げたまま答えを待っていたが、糸依の返した返事は少しばかり予想を越えてきたのだった。絡めた腕が引き寄せられ、向かい合うと、目を閉じて俯いた。)「ほうかほうか。それなら、おまんにええ物を貸しといちゃる。」(俯いたまま、空いた手を自分の頭の後ろへと持っていき。結び目に指を差し込んで、器用に、だけど力任せに赤い鉢巻を解くと、するりと落ちた鉢巻を掴む。手首を何度かくるくると回して長い鉢巻を巻きとると、糸依の手に握らせた。)   (1/26 22:11:53)
シロー/竜灯 > 「王国のサムシング・オールドにはちっくと真新しすぎるけんど、⋯俺と思って今は持っててくれ。」(にっ、と穏やかに、かつ明るく笑った。)「お守りぜよ。いつかこん鉢巻を返してくれたら、そん時は糸依さんを一緒に嫁に貰おうかの。」(⋯やき、それまで死ぬな。という言葉は飲み込んだ。厄除けの赤。験担ぎと言われればそれまでだが、きっと効果はあるだろう。聡い糸依さんならば気づいてくれるに違いないから。【運命の赤い布】   (1/26 22:11:54)