メリル
見られない時計めりー/メリル > 「っ、ん〜……いま、何時かの…?」(鳥の囀る朝の刻。もぞもぞと布団から這い出してきた化け物は、蹄の四肢をグッと伸ばしてはそうぼやく。ジジくさいその言葉を紡ぐ口は若々しく、男女どちらともとれるそのハスキーな声は誰にも届くことなく部屋の隅へ落ちていく。呼応するようにカチコチと壁掛け時計が鳴いて見せても、それは互いの一方通行。化け物が彼を見詰めてみても互いの視線は交わることは無く、彼が用途を果たし終えれば彼の存在は消えていく。時を知らせる為の時計は、知る人が、知らせる事を求める人が居なければ時計足り得ない。とすれば、時計が刻む長い長い時の中で、彼が時計で居られる時間は一体幾ばく程なのだろうか。彼が生きていられる時間は一体幾ばく程なのだろうか。化け物が時計を見詰め、いっとう細い針が震えながら生きて軌跡を刻んでいく。化け物が視線を逸らして時を求めなくなれば、あの針は死んでしまう。今まで幾度となく殺されたのであろう彼は今でも健気に役目をこなし、命を、役目を全うする。さぁ、化け物が時計から目を話すまであと3秒。6時丁度までと決められた時計の命は、今までと同じ足並みで、変わらず最期を迎えるのでしょう。) (1/12 21:04:57)
めりー/メリル > 「6時…か。……嫌じゃ嫌じゃ嫌じゃ、まだ寝てたい〜〜〜っっ………のじゃぁ…。」(カチリ。時計の短針がピッタリ6に重なった断末魔を聞き届け、化け物は視線を時計から天井へ向ける。薄く橙に光る豆電球は今じゃあいてもいなくても変わらない小さなものだけど、夜中は彼がいなければ寝られない大切なもの。不思議、不思議。太陽の反対は月で、夜の間世界を照らすのは月というけれど、化け物にとっても夜の太陽は恐らくきっと彼なのだろう。なんてちっぽけな変わらない月。もう朝だから、役目を終えてもらわないといけないなぁ、なんて。ゆっくりと覚醒する意識の中で夜への別れを再認識したのなら、バタバタと手足を動かし赤子のように願いを叫ぶ。寝ててはいけない、起きなければならない、やることがある。それは重々承知なのだけれど、柔らかい明かりの豆電球と、朝の温い布団との別れはどうにも惜しいものだ。) (1/12 21:05:07)
めりー/メリル > 「起きなければ……じいがくれた畑が枯れてしまうしの………致し方無し、なのじゃ…」(暴れていた四肢の力をはたりと抜いて、ぽつりぽつりと自分自身を宥めては、化け物はそろりそろりと移りゆくのでしょう。水を1杯小瓶に移し、カーテンを開けて顔を洗う。小瓶から喉をこくりと潤して、布団を畳んで押し入れに押し込んで、パジャマを着替えて角を磨く。いつもの動作、ルーティーン。慣習化されたその動きは、人間よりも幾分動かしづらい蹄でも流暢に行われていく。ついこの間まではじいと一緒にやっていたのに、じいが居なければ上手く出来なかったのに。胸に空いた空白感に『寂しい』という題をつけられるほど、化け物は器用ではない。無題のそれを邪魔だ邪魔だと心の隅に追いやって、化け物は1人食卓に着く。1人分のごはん、1人分の容器。仕方ないのは分かっている。尊華帝国が大変なのだから、化け物もいつか1人になるのだから、いつかこれが当たり前になるのも分かっている。それでも、それでも小さな化け物にとって、嗄れた声が聞こえない日常は、今の時計のようなものだった。) (1/12 21:05:14)