竜灯&落陽&糸依
尊華帝國軍記 序章シロー/竜灯 > 「──そがな心配せんでも、この通りぴんぴんしとるぜよ」(尊華帝國軍 榮郷本部基地。ヨズア人に陥落させられた阿岸。続け様に至る所で王国の攻勢を受け、陥落した臥平。それらの方を受けて基地内は騒然と、ここ最近とは違う空気が流れていた。小走りで駆ける伝令兵、いつになく張り詰めた表情の上官。それらをくぐり抜けて、首から包帯を覗かせる軍人、竜灯は軍職に復帰した糸依に向けて、怪我をしていない方の手を結んで開いてと動かして肩を竦めた。帰還してから暫くは治療に専念していた為、臥平会戦の報はもう耳に入っているだろう。しかしだが、一応報告は形だけでもしなければ。⋯⋯⋯⋯と、いう名目でこれからの攻勢計画など聞いて、あわよくば自分が、という腹積もりであった。報告に行く、と行ったら着いてきた糸依を横に、落陽大尉の執務室を訪ね、ノックをしてから入室した。)「失礼しますちや、大尉。遅れてしまいましたが、臥平会戦の報告に参りました」(ちらり、と糸依に目配せをしようかと思ったが、勝手に挨拶はするだろう。糸依が一通り挨拶を済ませてから、壁際の執務机に向かう落陽に近付いた。) (1/3 15:38:43)
シロー/竜灯 > 「⋯⋯で、その事なんですが大尉、報はもう他から聞いちょりますか?」 (1/3 15:38:45)
ひよ/落陽 > (廊下の喧騒は何時にも増して峻烈なものがあり、尚も森厳な様相を醸し出しており、普段でこそ静かな執務室にも頻繁に伝令が出入りし、重厚な執務机に書類の束を纏めて置いて出て行くものだから、その都度廊下を蠕動する下士官や将校の張り詰めた弦のような面持ちに、思わず溜息を零してしまうある日のことである。私は発端である竜灯兵の処遇などについて一切の手出しを無用とし、己のみで完結するといったものに加え、今後の臥平攻略に関する文を軍部上層へ送り付けては、茶でも飲み一服でもしようかといったところ、扉を数度ノックする音の聞こえ、その壁一枚越しに伝わる雰囲気から伝令でないことは確かである。──そしてその後、以前聞いた男の声がし、だが、威勢は落ちているものの、宛ら蹴破るように入室をするという、同じ過ちを繰り返さないところは評価できるだろうか。) (1/3 15:58:36)
ひよ/落陽 > 「入れ。──今日は連れが居るのか? まあよい。……話はとうに聞いておるぞ、なんでも阿岸攻城に失敗した挙句、臥平でも騎士団長に手傷を負わせたはよいが、すんでのところで敗走したと。上の方々もその功績自体は褒めつかわしておったわ。私も言いたいことは多々あるが、そこまでねちっこい者でもない。水に流すとして、今日はどういった要件だ? ──糸依と申したか、貴公は当会戦について、関与はしておらぬはずだと聞いておるが……」(“話は聞いておりますか”と言われれば、そう若干の睥睨と共に自らの前に立つ二人の顔を交互に眺めて、何せ片方は、今回の臥平陥落には無関係の兵であると見たからこそ、彼女を連れてくる理由を問うて。) (1/3 15:58:38)
清瀬/糸依 > 「虚勢で詐りしところで、もう見知るたり。……しっかり大尉殿に叱はれて下さい」(軍に所属してから感じることのなかった、肌を奮わせる空気。最早興奮を憶えるこの張りつめた榮郷本部の空気に、私はやはり軍人として生きるべき定めだったのだと痛感する。実際、隣で怪我をひた隠しにする彼が居なければ、今すぐにでも笑顔で玉砕に応じてしまいたいぐらいだ。國が好きなのではない、あくまで戦が、見知らぬ屍の上で己の國の旗を拝むことが望み。……などとは、もう口が裂けても言えぬこと。握られた拳と首の包帯、それらを一瞥してそっけなく返事をすれば、真っ直ぐ前を向いてそれっきり黙りこくる。無断で阿岸へ、そして臥平へ。その報せを聞いた時には、既に事は過ぎていた。内心言いたいことが渦巻いて今にも零れそうだが、此度の大尉は聡明なお方だ。彼女ならば正しい判断を下し、宛ら魔術のように言葉で行く先を指してくれるだろう。……強かな闘志もお持ちだ、揺さぶるようで悪いが一つ、提案もさせて貰おうという魂胆である。) (1/3 16:29:59)
清瀬/糸依 > 「失礼致す。お初御目にかかりて候、大尉殿。帝國軍一介兵、糸依に申す」(軍服の襟を正してから竜灯に続いて執務室へと足を踏み入れ、一礼の後に挨拶を済ませる。此方から一方的に存在は知っていたが、いざ対面してみるとまぁ…らしい人であった。威厳と慈悲を上手く融合させたような、あまりの出来に徐に粗を探してしまいたくなるお人である。)「……私ですか。いえ、何の事はありませぬ。此方の惚れた女、と申せば聞こゆかと。文句などは小賽もありません、命を惜しんでは尊華の恥なる故。……しかし、些か悩ましきことではありませんか、大尉殿」(向けられた視線に抗うように此方も見つめ返すと、少々肩を竦めて隣の竜灯にそれを移す。惚気る為に来たのではない、話の通じそうな彼女だからこそ、私は着いてきたのだ。演説のように何かと大袈裟な抑揚をつけて、言葉を続ける。) (1/3 16:30:01)
清瀬/糸依 > 「阿岸はヨズア、臥平は王国の手に落ち、背にも真っ向にも敵の数多と居るこの状況。善戦されているのは痛くわかるのですが、上は変わらず腰を上げぬ有り様です。……臥平をこのままにしようとは、大尉も思しておらぬ筈、もし近々動く気がないと仰るならば、私から名乗りを上げ申そうかと思った次第です。──決して敗走など致しません、力の尽きるまで、この身を投ずつもりです」 (1/3 16:30:08)
シロー/竜灯 > (惚れた女⋯⋯糸依さんもまた強かになった。ぴくりと口角を上げる。糸依らしくなく言い切った理由は、何時ぞやの夜があったからか。そこまで考えて、続いた声を耳にしながら違うなと考えを変えた。糸依もまた軍人で、久しいこの緊張感に高揚しているのだろう。軍人魂に溢れた進言に、胸がかあっと熱くなるのを感じて、自分も口を開いた。)「ほうです、王国の騎士団長はこん俺が、尋常に一騎討ちの果てに下しましたちや。俺も、糸依さんも、兵達も浮き足立っております。帝國軍人の誇りに賭けて挑まんとしちょります!」(尉官であれば良く分かる筈、軍人達が燃えている事を。糸依と大尉に対し、交互に目配せした。)「臥平や阿岸奪還の戦列には勿論、並びたいですけんども、こん俺、返す刃で王国に侵攻する事も考えちょりました。王国への一番槍の栄光は是非俺がと思うて⋯⋯そこでです、単刀直入に、攻勢の計画を俺達に!俺らを今すぐ前線に出して欲しいぜよ!」 (1/3 17:03:14)
ひよ/落陽 > 「ほう、貴公が彼奴(きゃつ)の……。成る程な、貴公の為に此奴は躍起になって、そうして今に至る。貴公は故郷が阿岸だと此奴から聞いておるが、斯様なものであったか。であれば貴公らの思うところの分からぬこともない。──が、上層も上層で困った連中であってな、休戦協定が破られて以来頻発しておる王国の帝國領への侵攻、その程度で狼狽えておるわ。貴公の言い分は尤もであると私も断言しよう」(兵卒という立場でありながら、中々のものをいう輩であると薄っすら感じていた。以前の竜灯の件もそうだが、どうにも下士官や兵らの抱く上層への不信感は相応に溜まっておるようで、一将校としてこの由々しき事態は見過ごすにもいかないものであった。彼女の提案に加えて、竜灯までもが王国領への侵攻を提案するものだから、またその意気込み、士気の高さなど諸々を加味した上で、無碍にするわけにもいかんだろう、と一考した上で、そうだ、と何か思いついたように。) (1/3 17:33:24)
ひよ/落陽 > 「──そうだな。……これに目を通せ。私が先刻、上層へ送った文の写しである。万一に備えて用意したものだが、……。貴公らの眼(まなこ)が節穴でければ、だが。その紙面に、のう、一体何が何が見えておる?」(──中略、帝都ノ守護ヲ以前ノ如キ堅城鉄壁ト成ス為ニモ、早急ナ臥平奪還作戦決行ノ要ヲ認メ、此レヲ此処ニ進言スルモノトスル。尚、当該作戦二於ル出征指揮ニツヰテハ、落陽ノ執ルモノト願フトコロデ在ル。──尊華帝國軍大尉官 落陽。 ……そう、一文字一文字を細身の筆で端正に連ねた文であることが、きっと読み取れるはずだ。これまで専守防衛に努めてきた我が身ではあるが、帝都に隣接する拠点を落とされてしまっては、帝國の存亡そのものに関与しているのだから、目の前の女性軍人、糸依のいう通りに、腰の重い上層の判断を待っているのでは、それこそ“日が昇ってしまう”。) (1/3 17:33:41)
ひよ/落陽 > 「──“余”はじきに、臥平に向けて兵を出すつもりでいる。此処を奪還せしめた後、“阿岸奪還に向けての露払い”でもしてやろうか、とな。後は、……のう?」(そこまでいって、私は二人の兵の顔を相互に見やり、独り言ちるような、どこか言い聞かすような、どちらとも言えぬような口調で告げれば、徐に椅子から立ち上がり、側のハットスタンドから大礼服に合わせ仕立てられた軍帽を取って被り、“どうする?”といったような面持ちで、多くは語らずにそう問いかけ。) (1/3 17:33:55)
清瀬/糸依 > 「仰る通りで、心苦しい事にあり。ただ、私は何も、愛郷心に駈られ進言した由にはあらず。此度の戦局は、天命でしょう。竜灯の活躍しけるに、一同呼応しき。今こそ好機なれ、如何か、大尉殿」(身を乗り出す勢いで、ここぞとばかりに追い討つ隣の彼。竜灯もやはり、軍人の性を持ち合わせているらしい。だからこその無茶苦茶な突貫を繰り広げ功績を持ち帰ったのだろう。目の前の彼女の据わった瞳は、一体肯定か否定か、どちらの色を差すのであろうか。探りあぐねる中、ここまでくれば昂った思いを吐き出さぬ方が難しいもの、竜灯の言葉に被せるようにして、大尉に問う形でその真意を尋ねる。) (1/3 18:14:47)
清瀬/糸依 > 「これは…………。早急な……決行の要を……。ではっ、大尉殿!」(此方を向けて机上に置かれた文書は、まるで整った模範の文字。二歩ほど踏み出して認(したた)められたそれを覗き込むと、予想もしていなかった期待からかついつい口にその言葉が出てしまう。奔り読んで最早最後まで読まずに、迫るような声をあげた。)「……誠、有り難き所存で。よも赦させ給はじとて、少々戸惑い申しております」(高鳴りを感じた。じんわりと釣り上がる頬は、私にはどうしようもできまい。一同、恐怖がないわけではないのだろう。ただ、己が頂に登りつめるという高揚ばかりは何物をも打ち砕いてしまう。争いの根元たる感情は、無慈悲にも終戦の鐘の撞木にも鳴り得るのだ。深々と数秒下げた目線を、今度は隣の兵に向ける。少なからず私と感情を共有しているであろう彼と、言葉なく分かち合う感覚を覚えた。) (1/3 18:14:49)
シロー/竜灯 > 「では。」(それ、見たことか。戦場(いくさば)を離れて、上は軍人の本懐を忘れているのだろうか。その点大尉は流石、噂の叩き上げ。何年か前、入軍して間もない頃、初めて戦場に立った日の事を思い出しながら、大尉の反応を伺った。机上に滑った一枚の文。軍内の伝令、報に使われるような文体で書かれたそれは間違いなく、正式なもの。やはり読み解くのは糸依の方が早かったのか、先に声を上げた同志の反応には目もくれず、黙って文に視線を落とし、口角を吊り上げた。奇しくもそれは隣の彼女と同じ表情であった。)「ははは!まっこと大尉は⋯⋯上手いですのう」(露払いときた。このようにあからさまなお膳立てを受けて、昂らない訳がなかった。奪還せしめると言い切る眼差しと、頬を緩める糸依の視線を受けて、嬉しそうに口を開く。)「やけんど大尉、俺は臥平が奪還されゆうのを黙って見ちょる訳にもいかんのです。大尉、臥平の基地の一つ、こん俺にも落とさせて下さらんか。阿岸の前に、やっておかんといかんのです」 (1/3 19:03:44)
ひよ/落陽 > 「貴公らの理解と飲み込みの早さ、期待しておいて正解であったな。──諸々、その文書の通りである。余としては、阿岸奪還に対しては貴公ら二人にて赴き、これを奪還してほしいものだが……しかし一方で、竜灯、貴公は以前の件の謹慎処分もあり、現在阿岸への進軍は許可できん。であれば貴公も既に考えておるよう、余と共に臥平へ向かいこれを陥落させることに、是非とも協力をしてほしいものだ。──前線基地の一方は余が請け負う故、貴公は余が帰還した後、奪取に向かうのだ。武勲を挙げ汚名を返上せよ、さすれば阿岸への、此奴との進軍もまた許されようぞ」(──文書を見せてみれば、暫くの沈黙の後にまず、それを破ったのは糸依であった。宛ら文武両道といったところだろうか、誠に感心である。続いて竜灯、此奴は矢張り、糸依よりかは読み込みが遅いようにも思えるが、それでもなお、内容を理解してもらえて助かるばかりだ。少なくとも腰抜けが過ぎ、結果自らの首を絞めているであろう上層とは一味も二味も違うことは、伝わったようである。 (1/3 19:40:33)
ひよ/落陽 > ──なに、私もただひとりの愛国者であるだけだ。椅子の後方に置かれている太刀掛けより、純白の拵の一振りを手にとって下げ緒で佩び、大きな軍帽の向きを正して、再び二名の方を向き直り、そのように大まかな概要を伝えておこうか。竜灯については現在阿岸への侵攻はできないものであるから、私について臥平へ向かってもらうとして、では……。)「……ふむ、して、糸依。暫しの間此奴を預かるが、構わないか。──此奴がそう易々とくたばる輩でないことなぞ、貴公が最も知っておろう。なに、余がついておるのだ、死なせはせん。であるから糸依、貴公は迷わずに、阿岸へ向かうがよい。……軍人たるもの公私混同は言語道断であるが、しかし、気持ちが全くもって分からんという訳でもないのでな」(ああ言ってやりたい、好きなように故郷を取り返しにゆけと。しかしそう易々と笑みを浮かべてはならぬ、大尉官としての尊厳を保つため。本心を容易く告げてはならぬ、ひとりの軍人としてあるべきため。──であるからこそ、直接的に故郷がどうだとか、そういった事は言えぬが、それでもきっと伝わろう。何かがあれば、すぐに向かってやろう、と。) (1/3 19:40:35)
清瀬/糸依 > (どうやら返事は明るい兆しを見せている様子で、そのまま作戦の概要が伝えられる。責任を負うどころか、身を呈して直々に出撃するという大尉の言葉に、誠頼もしいの一言しか出ない。ふと、親しくしてくれた少将のことを思い出す。勲章を広々と顔に負った彼は、どちらかというと事を意のままに進めるのが得意な性質であった。有耶無耶になってしまったという会談や、例えば話の引き出し方、事の他話術に長けた上司であった。まだ彼方の方が穏和派で、しかしねちっこいから厄介だ。もっと彼女のように、竹を割ったようなとまではいかなくても、可愛げがあったろうに。──話は臥平へと進む。伝説、と常日頃から口にする竜灯にとっては、前の戦は随分と心に爪痕を残しているだろう。雪辱を果たさんと意気込んでいる筈である、躍起になりすぎて身を滅ぼさなければいいのだが。)「是非とも、その暁には朗報をお待ち申し候。──十分にわかっております。私も拘りのなき事と言えば偽りにありけれども、貴殿の采配にあらば、しかと承り申す」 (1/3 20:46:27)
清瀬/糸依 > 」(続いて阿岸である。臥平へと二人がかりで行くということは、警備の差はあれどそちらに重きを置く意志が見えるように思えた。ならば私は、全てを以てとことんご厚意に甘えてやるのだ。きつく結んだ目元だが、一瞬弱々しく二人へ瞬き、次に口を開く。)「ただ一つ、大尉殿。阿岸は一度、帝國からの進軍を受けています。警戒の強化、ひいては援軍が構えている可能性は、完全とは言えずとも想像に難くありません。……私の人脈はそれほど多く…いえ、寧ろ少ないのです。隣国も少ない今、一人相手ならばまだしも、兵の私だけでは限界があります、ですから──」「もし命ずるのであれば、いつでも構いません、仰って下さい。帝國の旗を掲げるまでは、顔を見せるなと、どうか」(実際私には、信仰という大切な要素が欠けている。人付き合いの悪い私だ、少数戦も容易に想像がつく。だからこそだ、帝國に勝利の神風を吹かせたいのであれば。──理由を挙げるならば、一人では決心がつかぬから、だろうか。一度口にしたことを魔術師が取り下げることなどできない、目には目を、魔術師を禁めるならば、だ。) (1/3 20:46:30)
シロー/竜灯 > (大尉の言葉はとても心地が良い。威厳に溢れた言葉の数々は、激しく己を鼓舞してくれる。いつまでも一兵卒のままいる気は更々無いが、大尉を見ていると、何度も肩を並べた上官の火傷顔を思い出す。きっと自分が将官にでもなった時にも「こん人達が上官で良かった」と思えるのだろう。性質は違えど、信頼の置ける同志の事を思い出し、ぽつりと話し始めた糸依の表情を窺った。⋯⋯確かに、理にかなっている、有り得ることだとは思ったが、こと戦ごとに弱音を吐くのは珍しい。軍人生活を送らない内に弱気になってしまったか、と感じて、支えるという約束通り、横から口を挟もうとして、すぐに噤んだ。⋯⋯ええ女だなあ、糸依さんは)「────尊華帝國軍、万歳!!」(張り詰めた空気を引き裂く様に、突然声を上げる。羽織と鉢巻が焼け落ちたせいで、久しく正式な軍装に身を包んだ竜灯はぴしっと踵を揃えて胸を張った。)「尊華帝國軍人の誇りに賭けて、死力を尽くし、武功と共に帰投する所存であります!!」(糸依の覚悟に被せるように言い放つと、腕を持ち上げ、額に掲げると規律良く敬礼をした。)「ご武運を!!」 (1/3 21:29:54)
ひよ/落陽 > (“尊華の旗を彼の地に立てるまで戻るな”と、そう自分が命令されるのを望み、直接訴えるほどに、彼女の意志は堅牢なものであるのだろう。──確かに阿岸はついこの間に帝國が侵攻し、これに敗走しているのだから、彼女のいう通りにより警戒すべきであるのは確かである。身を投げ出す覚悟、落とすまで戻らないともいうその覚悟は、決して軽率に扱ってはならぬということ、一軍人である私であれば、言われなくとも理解できよう。止める義務はない。御國の為に死ねなどとよく口にされるものではあるが、正にそれを果たそうとしているのだろうか、或いは、故郷か、愛人か──暫くの沈黙を破るのは、竜灯の張り上げた声だった。万歳三唱に、自らの覚悟を口にする。以前、彼奴がこの部屋を訪れた際の雰囲気とは打って変わり、羽織も、鉢巻もなく、最も基本的な軍装に身を包んだ姿は、其処いらを闊歩する兵卒の中に放り込めば、忽ち判別のつかなくなりそうなほどであるが、しかし、姿こそそうであれ、放つ雰囲気は、とても一兵卒とは言えぬような代物であった。) (1/3 21:58:31)
ひよ/落陽 > 「──此度の戦、きっと御神(おんかみ)照覧のことであろう! 尊華帝國と八百万の神々の威光を、世に知らしめる機会である。これを阻む者共に天誅を下し、各々、再びこの神威の地に無事帰還するよう! ──糸依よ、大尉官の名において命ずるぞ、阿岸を落とすまで余の前に顔を見せるでない。そして尊華の旗の飜るその時、再び舞い戻るがよい。そうして、此奴を連れてゆくのだ。……よいな? ──皆の武運を、祈っておるぞ」(竜灯の敬礼に応じるように、そう鼓舞激励するかの如く総括を述べ、ゆっくりとした動作で静かに敬礼をしてみせる。そうして二人の顔を真剣な表情で見やり、そうして、糸依に対してそう告げる。貴公がそう望むのであれば、ならば命じよう。ただ、……。条件がある。何時になろうと構わない、必ず帰還し、此奴と、竜灯と阿岸に行ってくれ。それさえ遵守するのであれば、私はもう何も、語るべき事はない。──この場でも私は言うことを全て告げた。……後は、貴方だけです。) (1/3 21:58:33)
清瀬/糸依 > (猛り立つ為の舞台も、上司からの下しも頂いた。ここまで用意されてしまっては、退くなどという一択は捨てたようなもの。退路を塞ぐ手助けを、買って出て貰ったのだ、後は実行あるのみである。確証たる未来など存在しないが、ならば奪い取るのが礼儀。此処に居る各々が軍人の鑑である。)「はっ、尊華帝國軍兵糸依、必ずや阿岸を奪還して参ります!」(震えた声であった。高らかな宣言は覚悟の表明の傍ら、己を突き動かす為に発せられた。ここまで言ってしまえば、みすみすと勝利を逃して帰ってくるなどというのは一生の恥だ。二人ならず軍内の某かしから冷たい視線を浴びることとなるに違いない。窮鼠猫を噛む、というぐらいだ、実力を出すには追い詰められた方が丁度いい。腕を後ろで組み、一呼吸の後に二人を交互に見つめて続ける。) (1/3 23:17:56)
清瀬/糸依 > 「落陽大尉、竜灯兵に告ぐことには……再び此処にて互いを称えあい、又た王国やヨズアの民々に尊華帝國の威厳を示さんことを望みます!……皆様に、御神の加護のあらんことを!」(いつもを取り繕う程の頭はとうに残っていなかった。戦士を奮い立たせるのはいつだって送別の一言だ。此処からは、勇者と成り上がるか否かの二つに一つである。戦う相手は魔王でなく、惡の巣窟から持ち帰るのも可愛らしい御ひい様ではない。栄光を掴みとったものが主人公だ、勝ってしまえばそれが正義となる。家内の見守る中、己を待つ人が同じく奮闘する中、くたばる理由は何処にもない。今ばかりは、私たちが世界の魁となる。六つの瞳は獰猛に輝き、其々の生い先を見据える。これから紡がれるのは、欠片となった帝國軍を繋ぎ留める為の、三人の勇姿である。)〆【尊華帝國軍記 序章】 (1/3 23:17:58)