落陽
作戦報告書:琳城 ─記:落陽ひよ/落陽 > (報告。先ノ山北里琳城防衛戦ニツヰテ。ウエンデヰア王国ニヨル帝國領山北里琳城ニ向ケテノ、小規模魔術師隊ニヨル侵攻ノ報ヲ受ケ、我此レニ対シ迎撃ノ要ヲ認ムモノトシ、小隊規模ノ魔術師ヲ率ヰ同地域ヘト向カツタ。先ノ竜灯兵ニヨル阿岸攻城作戦ノ失敗ニヨツテ、魔術師ノ疲弊ガ確実ニ認メラレ、同部隊全員ガ負傷スルモ、敵小隊ノ大半ヲ機能不全ニ追ヰヤル。終ヰニ兵力尽キ、敵部隊指揮官ト一戦交エタモノノ、此レニヨリ敵指揮官ガウエンデヰア王国騎士団長デアルト確認。我此レヲ撃退シ、琳城ノ防衛ヲ完遂ス。今後王国ノ動向ニ対シ警戒ヲ厳トスルヨウ提案ス。──追記:竜灯兵ハ独断ニ於ヰテ攻城ヲ行ツタガ、此レノ失敗ニ対シ、処罰ノ減刑ヲ求ムモノトスル。──尊華帝國軍大尉官 落陽。)「──この程度だろうか。竜灯は臥平会戦においても相応の功績を残したと聞く。電報に誤りが無ければだげど、こっだら戦果がありゃあ、流石に上部も阿岸事変を帳消しにしてくれるしょや……」(すでに日は落ちた執務室。重厚な机の上に置かれた一枚の書類に、すらすらと万年筆で文字を綴っていって、ある程度の区切りが付けば洋墨瓶に戻し、“んん〜っ!”を大きく伸びをしてみせる。 (1/1 04:45:27)
ひよ/落陽 > ……尤も、周りに誰もいないことを確認した上でだが。普段の軍人然とした口調の際の声色とは打って変わり、それはあどけない少女の声であった。そうして彼女は独り言ちるのだ。枷の外されたかのように、どこの田舎出身か分からないような方言を用いて。先の防衛戦を回想するものだ。王国が琳城に侵攻したというものだから、賺さず兵を率い防衛に向かってみたのだが、その指揮官が騎士団長だというものだから。──自身の背後、太刀用の刀掛けに添えられた純白のふとふり、鈴鳴定宗を手に取って、柄頭に結ばれた赤い紐の先の、鈴を人差し指でつつく。鈴の転がる音がして、かざした片手のその先にはちょっとした魔術障壁が展開される。……この障壁で魔術を防ぎ、またこの刀で撃退したのだ。紛れも無い事実である。誇るべきか、あの騎士団長を追いやったことを、誇りたいがどうにもその程度で奢るわけにはいかないらしい。 (1/1 04:45:30)
ひよ/落陽 > どうにも王国の意図が読めない。……大尉となって、軍人となって間もない故か、そういった情勢に対応する術こそ持っているが、だが、実践経験が少なすぎる。そんな彼女は慢心せず、軽快に徹する他ないのだ。武功を焦って殉職など考えたくもないらしい。……それも人なれば当然だろうか。──誰もいない執務室、大尉官に与えられた居場所に、不相応な少女の溜息が響く夜の話であった。) 「あの顔、覚えといちゃるよ。流石に忘れんべさ。──はぁ……今日は休もう……」 〈作戦報告書:琳城 ─記:落陽〉 〆 (1/1 04:45:48)