ヨハン
グリーンライト-後編-マリア/ヨハン > (ジブルのねぐらを飛び出してから、やっぱり戻って謝ろうか、どうしようかと悩んでいくうちに夜が明けた。スザンの町を歩き、思い込みかもしれないがやはりどことなく居心地の悪さを感じて、ようやくスラムに戻ろうと決めたのは夕方の事だった。ジブルと過ごした二週間ほどの間でスザンには梅雨の季節が到来していて、その日も雨が振っていた。まずねぐら、それからスザンの墓を見て回ったけれど、ジブルはどこにもいなかった。他に考えられるのは……―――)「………ジブル……」(雨に濡れた小さな神殿。そこには、ぼろぼろになって倒れているジブルが居た。)「……ジブル…ッ!?お、おい、なんだよ。何してんだよ、オレがちょっと2日くらい目を離してる間になんでこんな事になっちゃってるんだ!?……ああジブル、話せるか?痛いなら起き上がらなくていいよ……っ。」(ジブルは一言、『ヨハン』と呼んで微笑んだ。『俺ぁ、やっぱり墓荒らししかできねえや。ダメだな、ヨズア人ってのは。』彼は、墓守に折檻を受けたあの日よりも手ひどい怪我を負っていた。) (1/2 06:43:26)
マリア/ヨハン > 「……バカじゃねーのっ。違うよ、アンタみたいなのがいるからヨズア人の印象がいつまでも良くならないんだ!俺より長く生きてるくせに、そんな事もわかんないのかよっ!」(ジブルの姿を見て焦り、高ぶった感情をそのまま怒りとしてぶつけてしまう。そこが神殿だったからか、どうしてか彼がそのまま召されてしまうのではないかという思いが頭をよぎり、言葉に反して目には涙が溜まってゆく。死ぬほどの怪我ではないなんて、冷静になればわかる事であったのに。――『お前に金を返してやりたくて……貴族の屋敷に忍び込んだよ。今度は墓じゃない、生きてる人間から奪おうとしてみた。……だァめだなァ、このザマだもの。』ジブルはやはり優しげに微笑んだ。ジブルの拳についた赤は、自らの血なのだろうか、それとも……。)「……ごめん……オレそんなつもりじゃ……ごめん、ごめん…あの金はオレんじゃない。オレだって、家からとってきた金さ。オレの稼ぎじゃない。オレにあんなこと言う資格なかったんだ……っ。」 (1/2 06:43:34)
マリア/ヨハン > (ジブルは緩慢な動きで起き上がり、座り込むとぽつぽつと話しはじめた。ヨハンの身なりを見て、初めから金を持っていると思っていたこと。あわよくばという気持ちがなかったわけじゃないこと。ヨハンの行いを否定しない代わりに、自分の行いも否定しないでほしいということ。このスラムでさえも変わり者のジブルには居場所がなく、ヨハンと過ごした時間が名残り惜しいあまりに金を返そうと思い立ったこと。ジブルは血のついた拳を上に上げ、指を一本立てて神殿に吊り下げられたエメラルドを指した。――『あれ、俺が買ったんだ……お前にやるから。売れば金になる……。本当なんだ、嘘じゃない。信じてくれ、ヨハン。あれは、この神殿でいちばんきれいな捧げものは、紛れもなくこの俺が神に捧げたもんなんだ。』初めて此処に来た時思いを馳せたヨズア人、このエメラルドの贈り主はジブルだったと、彼は言う。もう今となってはジブルの言葉がどこまで本当で、どこからが嘘かも解らなかった。買った、と言ったけれど。その金の出どころだって知れたもんじゃない。それが墓荒らしだとしたら、彼の信仰は尊華の信仰をないがしろにする事の上に成り立っていたんだ。) (1/2 06:43:43)
マリア/ヨハン > 「……わかった、わかったよ……。もう……いいからさ、帰ろう、ジブル。」(ジブルの言う通りエメラルドを神殿の梁から外す。肩を貸しねぐらにジブルを連れて行くと、疲れていたジブルはすぐに眠ってしまった。その夜、その足でヨハンはねぐらを出た。もうこれ以上はここに居られないと、今度こそそう思った。神殿から奪ったエメラルドをねぐらに残して。――――スラムを出る前、もう一度神殿に立ち寄り、垂れ下がってる糸を器用に編み込んで、ひとつの宝石を捧げた。)「……神様、これはオレとジブルからってことでどうかひとつ宜しくお願いします。」(祈りを終え、腰に指し直した短剣は、7つあるうちの宝石のひとつが外されていた。)〆【グリーンライト:後編】 (1/2 06:43:56)