竜灯&落陽
密約シロー/竜灯 > (時刻は午前。尊華帝國軍榮郷本部基地にて。軍服に羽織姿の兵、竜灯は仕事納めのつもりか、珍しく自ら上官の元に出向いていた。)「失礼しますちや大尉。早速ですがお話が!」(大尉の執務室にやってきた竜灯は、窓を背に向かい合うように座った、落陽大尉を見つめて早速とばかりに話を切り出した。少し足を広ると体勢を少し楽にして、立派な机に詰め寄るように体勢を前倒しにした。)「阿岸がヨズア人に落とされたと伺いました!つきましてはこの俺に、阿岸奪還の任を務めさせて頂きたく!必ずや尊華の旗を翻してみせましょう!!」(何を意気込んでいるのか、そのまま机に手を突きそうな勢いで捲し立てる竜灯であった。 (12/31 17:56:15)
ひよ@落陽 > (昼を回った頃である。大尉官向けに用意された執務室の、木製の多少は豪華にも見えるだろう椅子に腰を掛け、重厚な机の上に散らばった書類の束に対して何かを記したり、嫌な顔をして投げるように遠くへ置いたりと繰り返す、別に普段と、就任以来から変わらない一日を過ごしていたものだが、ある時、廊下の向こうから方言交じりの、威勢の良い挨拶が聞こえたかと思えば豪快に扉が開かれ、一般的な軍服に羽織を纏った兵があった。)「──入、れ……。ああ、竜灯か。此度は如何なる要件だ、まあ座りたま、……えよ」(入れと言う前に入り、そうしてその勢いのまま目の前の椅子にどかっと腰掛け、すぐさま楽な姿勢をとる。……なんだ此奴は、といったような、しかし実際のところはまだ、あどけなさの抜けない少女の顔に、困った色を浮かべるだけであるが。威厳のかけらもない。……ともかくそんな台風のような相手は、まさしく早速話を切り出した。 (12/31 18:14:57)
ひよ@落陽 > 阿岸陥落の報は確かに認識していたが、まさか一兵卒の彼が奪還作戦への任命を上官へ直談判しに来るとは、噂には聞いていたが良くも悪くも遠慮のない男である。そんな熱量の彼とは対照的に、困惑から顔色ひとつ変えない落陽は、静かに口を開いた。)「──待て、話が読めぬわ。阿岸陥落は耳にした、上層でも会議中である。しかしそこで何故、貴公が斯様に意気込む必要がある。こういうものは私個人で決められるものではなくてだな、……」(或いは机に諸手をつきそうな怒涛の勢いでそうやって詰めかけるものだから、どうしたものかと溜息。)「……理由を話したまえ。そのくらいを聞かねば、提案も何も、できたものではない」 (12/31 18:14:59)
シロー/竜灯 > 「分かっちょります、分かっちょりますが......このまま放っておいては帝國の権威に関わってきます!聞けば阿岸が攻め落とされて、もう暫く経っちょるらしいじゃやいですか。⋯⋯のう、今頃きっと阿岸の民は『帝國軍の腰抜け共~』『まだ来てくれんのか~』と言っちょるやも知れませんのう?」(自分より一回り近く若い大尉であるが、やはりというべきか二つ返事で認めてはくれなかった。だが今となってはこんな事を相談して可能性があるのは、この上官しか居ないのである。前倒しにした上体を起こすと、大きく身振り手振りを加えて、まるで帝國の未来を憂うかのような表情で首を捻り、考え込むフリをした。)「そうなっては、帝國軍の権威は落ちる一方⋯⋯王国にも舐められ⋯⋯、いやあけんども、確かに上様の腰が重いのは仕方がないですしの、困ったものですね⋯⋯。非難はきっと動かなかった将官の方々にのしかかってしまいますの⋯⋯」 (12/31 18:40:24)
シロー/竜灯 > (はてさて困った、と言いたげに首をぐいぐいと捻って項垂れると、暫くの沈黙が場を支配する。ちらり、と貴方の顔を上目遣いに確認すると、ここぞとばかりに顔を上げて真面目な表情でがたんと立ち上がった。)「ですがご安心ください大尉!俺も尊華軍人としてこの状況を黙ってはいられません!他の軍人が動けないのならば、この俺が手ずから攻めて、尊華の権威を守り抜き、知らしめてみせましょう!」(張った胸をどん!と拳で叩くと、背筋を伸ばしたまま自慢げに続けた。)「全ては尊華の未来の為、粉骨砕身の覚悟を以て責務を全うする所存です!」 (12/31 18:40:26)
ひよ@落陽 > (いちいち身振り手振りも、また声も大きな男である。ましてやその一言一句、抑揚があって妙に芝居がかっているように思えるのがとても小賢しく嫌らしいといったところか。上官の前であるということをいまいち理解していないようにも見える彼の、首の捻り、また、暫くして、沈黙を破るように音を立てて立ち上がったものだから、思わず彼女は顔を顰めた。……その椅子その机、誰の所有物だと思っておる、と。)「……竜灯、ひとつ訊ねるが……君は、或いは私を脅しているのかね? 一兵卒が国の命運なぞ語るに早いわ、貴公は今上官の、大尉官の前にいる。身分を弁えたまえ、言動行動を弁えたまえよ……。──だが、しかし君の言いたいことも理解できるものだ。奪われたものをそのままにしておくのは、如何にも癪に触るからな。さて、どうしたものか……」 (12/31 18:58:05)
ひよ@落陽 > (机上の書類の束を整理しながら、半ば右から左へ流すように聞いていた落陽であったが、やがて相手の方を向き直り、生真面目で軍人然とした(と、本人の思っている)表情で以ってして、口を開いた。)「さて竜灯。芝居の時間は終わりにしようか。……いちいちそのような語りをされては気が散るのでな。──で? 君の愛国心に偽りがないのは百も承知だが、……。或いは、他に阿岸へ赴きたい理由などがあれば、包み隠さず話せ。無ければ構わない。あるのなら、話せ。さすれば考慮してやらんこともないのだぞ」(相手の演技然とした、いちいち癪に触る動作を逆手にとって、そう鎌をかけてみようか。) (12/31 18:58:09)
シロー/竜灯 > 「こりゃあ⋯⋯失礼しました、どうしても黙って見てられず、功を急ぐと笑われても文句は言えませんけんど⋯⋯」(どうやらこの方法では無理らしい。取り敢えずは体勢を立て直そうと上手いこと言葉を繋ぎ、肩を竦めて申し訳が無さそうに振る舞う竜灯であったが、遮ったのは落陽の声であった。既に失敗してしまったのだろうか、もし許可されないのならば同志を集めて攻めるのみだが、やはり上官のお墨付きを貰えるのが一番ではある。黙って言葉の続きを聞いていた竜灯だが、最期に付け足された言葉を耳にした竜灯の行動は早かった。ぴしっと頭を下げると即座に口を開いた。)「惚れた女の故郷が阿岸ですちや!男として放ってはおれんきに、こうして上官を頼った次第です!」(目の前の餌に釣られたか、ぺらぺらと真実を話してしまう。鎌を掛けられた事も気づいていないが、魔術師が一度口に出したのだ、少しでも考えてはくれるのなら言わない手は無い、という思考からくるものであった。ここまで来たら自分の覚悟ついでに包み隠さず話してしまおうと顔を上げ、髪を軽く掻いて笑った) (12/31 19:12:19)
シロー/竜灯 > 「けんども、無理なら無理でええですよ。ダメ元ですきに、俺一人でも攻めて見せますちや。」(これはもう決めたことである。 (12/31 19:12:21)
ひよ@落陽 > (さて口を割るか、否か、……。彼女はそう思ってただ黙って、相手の顔色を伺っていたが、鎌を首に添えた途端自ら首を切ったものだ。とことん単純なのか、或いはそれほどまでに、想い人の故郷に対する思いが強いのか。……ともかく理由は分かったが、どうしたものか。軍人として任務に私情を挟むとは、はっきり言ってしまえば有り得ない話なのだ。それを了承したともなれば、私の面目も立たない。まして軍部内からの評判もよくない私なのだから、極力面倒なことは起こしたくない。仲間内で揉めることほど嫌なことはないのだから。)「──公私混同とは恥を知れ、私より幾つも歳を重ねているであろう貴公が、そのような理由から奪還作戦を単身申し出るとはどのような了見か」(まずはそう言うしかないものだ。しかしこの士気の高さなのだから、彼の私情で一領土を奪還できるものなら安いものだ。……こう言うと、自ら尊華軍人に染まった気がして嫌だと彼女が言うが、兵は替えが効くのだから。では、……。どうしようかと、彼女は一枚の白紙と、机上の万年筆を洋墨に浸して、柄を相手の方に向ければ紙と同時に差し出す。) (12/31 19:28:17)
ひよ@落陽 > 「──だが、しかしだ。軍部としても阿岸を奪還したいのは確かである。であれば貴公の士気の高さは大いに役立つはずだ。……この紙面に『独断デ阿岸領ノ奪還作戦ヲ決行ス』と記せ、貴公の字もだ。あくまでこれは貴公の独断であり、私は何も見ていない、これを渡され、止める間もなく出て行ったことにすればよい。せめて処罰は貴公だけに向く。すまないが他人の色恋に口を挟む気はない、加えて軍人として公私混同は避けねばならぬ。逃げだというのならそれで構わないが、行きたければ書け」(……と、念を押すようにもう一度、白紙と万年筆を差し向けて。) (12/31 19:28:19)
シロー/竜灯 > 「⋯⋯ほうですか」(ならば話は早い。阿岸の状況を詳しく知っている訳で無いが、攻め落とされているのなら、取り返しに行くのみ。少数で攻め落とすことが出来たのなら、かなりの武功となるだろう。そのまま今日は失礼しようか、と思ったが、いやはや、流石は大尉であった。)「これは?⋯⋯⋯⋯うん、はい。───いやあ!流石は大尉殿、話は分かるし話も早くて助かりますちや。それが欲しかったんですよ!どれどれ」(万年筆と紙を受け取って、指で紙を机上でずらすと、立ったまま腰を曲げて筆を走らせた。達筆と雑な殴り書きと、そのあいだあいだと取れる様な自体で己の名前と共に言われた通り書き記す。⋯⋯竜灯、と筆でピリオドを打つと、紙を指先で回して落陽側に向けるとすすす、と滑らせて寄せた。) (12/31 19:57:31)
シロー/竜灯 > 「これで気兼ねなく征けますちや。分かっちょりますよ、〝勝てば官軍〟。アレを奪い返さんと死んでも死ねんきに、任せちょってください。勿論生きて吉報を持ち返ってきますき」(あはは、と頭に手を当てて一頻り笑うと、『その頃には俺も尉官、いや、将官かもしれませんのう』と凝り固まった空気を解すかのように口元を緩めた。 (12/31 19:57:33)
ひよ@落陽 > 「……よろしい。受け取ったぞ竜灯よ。無事奪還し想い人とやらの故郷に出向くとよい。……さあ、ここから先私は何も見ぬ、何も知らぬ、何も聞かぬ、だ。将官などと思い上がったことを言うな、図が高い。身分相応の態度で帰還したまえ。報告を待っている」(上手くも下手でもない字で記された、彼女の言った通りの文字の羅列と“竜灯”のサイン。今この時をもってこの紙は、突如として大尉官執務室に押し入ってきた一兵卒が、応答を耳にする前に叩きつけていった書類になる。独断で奪回作戦を決行しようとした男の出した書類となった。私はこれに対し一切の責任を負わないが、だがこの男もまた、そう容易くくたばる筈もなかろうと、そういった信用の上での契約である。瞳を閉じれば目元の紅色が目立つが、口角は多少上がっていて。)「──さあ、私もあまり暇ではない。無駄口を叩いている暇があれば、急ぎ同志を募り件の故郷へ赴け。これを遺書をすることのないよう、存分の活躍と武運を祈る。……以上だ、下がってよろしい」 (12/31 20:22:13)
ひよ@落陽 > (相手から万年筆を預かり、洋墨瓶の中に戻せば、腹部で指先を組んで背凭れに寄り掛かり、若干ばかり目を細めてそう告げる。そうして部屋を出て行こうとする彼のその後ろ姿を見送っておこう。色恋模様というものは十八になっても未だに解せないものであるが、だが、ひとりの為に此処まで熱意を見せることのできる男に慕われるとは、しあわせな人がこの国にも居るものだと、私は、どこか嬉しくなるような、或いは、……。ともかく、今は驚くまでに単純で、人想いの彼の無事の帰還を、願うばかりだ。──けっぱれよ) 〈密約〉〆 (12/31 20:22:15)